春日井 良隆

Windows 10の2つのWebブラウザ、Microsoft EdgeとInternet Explorer 11

こんにちは。日本マイクロソフトの春日井です。
1995年に公開されたInternet Explorer 1以来、マイクロソフトは20年ぶりとなる新しいWebブラウザ「Microsoft Edge」をWindows 10とともにリリースしました。
どうして、マイクロソフトはこの判断に至ったのか、IEはこれからどうなるのか。おそらく多くの方々が抱いているであろうそんな疑問に、中の人としてお答えしたいと思います。

Internet Explorerのサポートポリシーの変更

まずは意外に知られていないIEのサポートポリシーからお話しましょう。
この原稿を執筆している2015年9月1日時点では「そのIEが動作するOSのライフサイクルに準拠する」これがIEのサポートの基本的な考え方です。
例えば、IE8はWindows VistaとWindows 7で動作しますが、Vistaで動作するIE8はVistaのサポートが終了する2017年4月に、7で動作するIE8は7のサポートが終了する2020年1月にサポートが終了します。

IEサポートポリシー変更

昨年の8月にこのサポートポリシーが「2016年1月12日以降は各OSの最新版のIEのみをサポートする」ことに変更されることが発表されました。
つまり、Windows 7 SP1では、最新版のIEであるIE11のみをサポートすることになります。
詳細は「Internet Explorer サポートポリシー変更の重要なお知らせ」をご覧ください。
今回、サポートポリシーの変更に踏み切ったのには3つの理由があります。

1.セキュリティ対策

インターネットを通じたセキュリティの脅威に対抗するために、マイクロソフトではIEの潜在的な脆弱性を日々、修正しています。しかし、提供当時の環境を前提として開発された古いバージョンのIEでは、定期的な更新プログラムの適用だけでは対応が難しいケースが現れるようになってきました。
NSS Labs によれば、悪意のあるソフトウェアに対する保護件数は、IE8では69%でしたが、IE11では99%以上になっています。Webブラジング環境を最新のIEにすることで、より安全かつ便利にインターネットをご利用いただけます。

2.開発や検証の負担軽減

現在のサポートポリシーでは、Windows 7ではIE8/9/10/11の4つのバージョンのIEをサポートしています。言い換えれば、WebサイトやWebサービスの提供者が動作環境としてWindows 7をご選択いただく場合は、これらのIEを前提としたWebの設計、開発をしなければなりません。また、提供開始後もこれらのIEでの動作検証が必要になります。
動作するIEを最新のIEのみに絞ることで、Webを提供する側の開発や検証に必要なリソースの負担が軽減されます。

3.最新技術への対応

Webの技術は日々、進化を遂げています。新たなAPIや要素が提案され、改良と検証を重ねて、やがて標準化団体の草案、勧告と進めば、開発者は早くその新しい技術を試してみたい、提供者は自社のサービス、サイトに早く取り込みたいと考えるでしょう。
HTML5 Experts.jpの読者のみなさんならこの気持ち、分かっていただけると信じています。

Microsoft Edgeリリースへ

IEのサポートポリシー変更の理由は、そのまま、マイクロソフトがMicrosoft Edgeという全く新しいWebブラウザを開発するに至った理由につながります。

IEのレンダリングエンジン「Trident」を搭載した最初のIEは、Netscape Communicator 4.01 日本語版の提供が始まった1997年に公開されたIE4でした。ほどなくして、HTML 4.0が勧告となり、2年後にはこの後、長く続くHTML 4.01がW3Cから勧告。
それから20年近くが経過した今、HTMLはHTML5が主流となり、さらにはWHATWGが進めるHTML Living Standardのように常に最新のHTML仕様をアップデートする流れが生まれたのは存じの通りです。

一方、HTML5では数多くのAPIが実装されたため、JavaScriptの重要度が飛躍的に高まりました。デバイスに目を転じてみても、IE4当時には存在していなかったスマートフォンやタブレットという新しいデバイスでWebを見る、Webを使う人はもはや珍しくありません。

従業員が個人的に所有しているスマートフォンを職場に持ち込み、それを業務に使用することを意味するBYOD –Bring Your Own Deviceが日本の企業社会で一般的になれば、社内Webシステムを抜本的に見直す必要性も出てくるでしょう。

ちなみにマイクロソフトではBYODが認められているので、私自身も個人的に所有しているiPhone 6をExchange Serverに接続して、メールやカレンダーを同期させています。
このような技術革新や市場の変化、日々アップデートされるWeb標準仕様、セキュリティの脅威に対応すべく、Tridentも更新を繰り返してきました。しかし、根本的に対応するためには、新しいWebブラウザが必要になると決断し、Microsoft Edgeの開発に踏み切りました。

Microsoft Edgeというブラウザ

Microsoft Edgeが最も大切にしているコンセプトは相互運用性、英語でいうところのInteroperabilityです。Google ChromeやApple Safari、Mozilla Firefoxとも相互に運用できるブラウザであること、一つのマークアップでPCはもちろん、スマートフォンやタブレットでも同じように描画され、動作すること、Microsoft Edgeはこの相互運用性を保つことを前提に開発されています。

その思想は、IEBlogの「Living on the edge – our next step in helping the web just work」でこのように示されています。

In cases where these changes necessarily differ from standards, we’re following through with standards bodies and other browsers to update specs and implementations to reflect the interoperable behavior. -Web 標準から外れる変更に迫られたとき、我々はWeb標準の仕様、他のブラウザの更新内容、相互に運用する挙動に合わせる。

Microsoft Edgeのレンダリングエンジン「Edge」では、Tridentをベースとして、まず、ドキュメントモードやIE固有の機能を300以上削除しました。ソースコードに換算すると22万行のコードを削ったそうです。次に49の新機能や新しいAPIサポートを追加し、WebKitやBlink、Geckoとの相互運用性を目指して4,200以上の修正を行いました。

Microsoft Edge Interoperability

相互運用性はマイクロソフトのみで実現することはできません。W3CやECMA internationalのような標準化団体やほかのブラウザベンダーと協力体制は不可欠です。
例えばマイクロソフトが開発し、W3Cに提案、2015年2月にW3C勧告となったPointer Events APIはFirefox、Operaに続いて、Chromeが実装することが発表されています。
また、Mozillaが開発したJavaScriptのサブセット「Asm.js」はEdgeのJavaScriptエンジンである「Chakra」に載ることが明らかになっています。相互運用性を実現しようとする姿勢はMicrosoft Edgeのユーザーエージェントからも見て取ることができます。

Windows 10 32bit Mozilla/5.0 (Windows NT 10.0) AppleWebKit/537.36 (KHTML, like Gecko) Chrome/42.0.2311.135 Safari/537.36 Edge/12.10162

Windows 10 64bit Mozilla/5.0 (Windows NT 10.0; Win64; x64) AppleWebKit/537.36 (KHTML, like Gecko) Chrome/42.0.2311.135 Safari/537.36 Edge/12.10162

最新のWeb技術への対応も積極的に進めています。Dolby AudioやGamepad API、HLSといったマルチメディア系のAPIからHTTP/2やHSTSなどのネットワーク系、CSSもRegionsやExclusionsなどがMicrosoft Edgeでサポートされました。

先頃、最終仕様となったECMAScript 2015(第6版)への対応状況も「JavaScript moves forward in Microsoft Edge with ECMAScript 6 and beyond」の中で明らかになりました。Microsoft EdgeやIEでの要素やAPIの対応状況はMicrosoft Edge | Dev (beta)の「Platform Statusをご覧ください。

このようなWebブラウザとしてのしっかりした土台の上にPCはもちろん、タブレットやスマートフォンでのユーザーエクスペリエンスを考慮してデザインされたシンプルなUIが実装されています。
お気に入り、リーディングリスト、履歴、ダウンロードを一元管理できる「ハブ」やユニバーサル Windows プラットフォーム アプリケーションとの「共有」などに、効率と応答性を重視したその新しいUIが感じられるはずです。
機能面でもペンやタッチ入力の操作性を活かしたノート機能が搭載されました。これらの新機能についてはMicrosoft Edge Webサイトで詳しくご確認いただけます。

Microsoft Edgeの新機能

Internet Explorerというブラウザ

相互運用性とともにマイクロソフトが大切にしているのが、Compatibility -後方互換性です。
過去に開発された旧いIEを前提に設計されたWebシステムとの後方互換性のために、Internet Explorerは引き続き提供されます。

後方互換性の重要な機能は、IEのバージョン毎のレンダリングルールを切り替える仕組み「ドキュメントモード」とIE11をIE8としてエミュレートする「エンタープライズモード」の2つです。これらの機能の使い方を含めたIE11への移行については弊社のエバンジェリストで、もう一人のエキスパートである物江が詳しく解説していますので、物江のブログ「準備は OK? サポート終了までに知っておきたい古い Internet Explorer 向けに作成された Web コンテンツの最新 Internet Explorer へのマイグレーション方法」をご覧ください。

また、旧バージョンのIEで動作しているWebシステムへのIE11の影響に関する調査を、数多くのコンサルティングやシステム インテグレーションを手がける野村総合研究所様に「」として公開いただいています。

Internet ExplorerはIE11が最後のメジャーバージョンとなることが明らかになっています。セキュリティ対策などのマイナーアップデートは今後も行われますが、新機能が追加される予定はありません。

Windows 10のブラウザ

Windows 10にはMicrosoft EdgeとInternet Explorer 11の2つのブラウザが搭載されます。それぞれのレンダリングエンジンは、IE11がTrident 、Microsoft EdgeがEdge と異なりますので、異なる2つのブラウザが搭載されているとお考え下さい。
Microsoft Edgeに実装されていないIEの機能はMicrosoft Edge Dev Blogの「
A break from the past, part 2: Saying goodbye to ActiveX, VBScript, attachEvent…」にまとめられています。

この中でもっとも気になるのはActiveXの非対応だと思います。EdgeレンダリングエンジンにはAdobe Flash PlayerとPDFレンダリングは内蔵されていますが、Microsoft Silverlightを含む、ブラウザ用のプラグインは動作しません。ActiveX非対応に踏み切った理由は相互運用性に欠けるためです。

1996年にWindowsのCOM/OLEをWebページに埋め込むために提供されたバイナリの拡張モデルであるActive XはWindows以外のOSでは動作しません。ActiveXを利用しているコンテンツやサービスを今後もWebで提供される場合はWeb標準技術を、Windows OSに限定で提供される場合はWindowsのアプリケーションへの移行をご検討ください。

Windows 10のブラウザ

Windows 10ではEdgeが規定のプログラムとして設定されていますが、他社のブラウザを含め、既定のブラウザを変更することは可能です。
また、提供者側からも互換性リストへの登録やグループポリシーの設定によって、使用するWebブラウザをIEに指定することが可能です。
マイクロソフトでは、コンシューマ向けの一般的なWebサイトのブラウジングにはMicrosoft Edgeを、IEとの後方互換性が必要な業務WebシステムではIEを利用いただくことをご提案しています。

Windows 10 既定のアプリの選択

まとめ

ある調査によると、Windows 8.xが起動している時間の53%、iPadでは42%を、ユーザーはWebブラウジングに費やしているそうです。実際に普段のみなさんのデバイスの使い方を思い浮かべていただければ、この数字に違和感はないでしょう。

コンシューマ向けのデバイスとしてPC、スマートフォン、タブレットが混在する今、ネイティブアプリと同じか、場合によってはそれ以上にWeb上のコンテンツ、アプリ、サービスが利用されています。Webを見るデバイスも今後さらにスマートフォンやタブレットの存在感がさらに増していくでしょう。先に記したように企業においても同様の動きが起こる可能性は十分にあります。

ベンダーロックインと呼ばれる、ある特定のベンダーの、特定の技術に依存した製品やサービス、システムは終わりを迎えようとしています。現在、マイクロソフトが進めるオープンソース化、クロスプラットフォームはまさにこれらを踏まえた戦略で、だからこそ、Microsoft Edgeでは相互運用性をなによりも大切にしています。

「Edge」という名称には”Living on the Edge” -常にWebの先頭を走り続ける、そんな想いが込められています。Legacy WebからModern Webへ。Internet ExplorerからMicrosoft Edgeへ。これからのマイクロソフトのWeb戦略にご注目ください。なお、Microsoft Edgeのプレビュー版はWindows Insider Programにご登録いただくとご入手いただけるようになります。

PowerPoint/Word/Excel文書やPDFなどのドキュメントをオンラインで公開、共有できるマイクロソフトの新しいサービス「Docs.com」に説明資料としてPDFを公開しています。

私事ですが、2015年9月1日より、エバンジェリストからWindowsのプロダクトマネージャーへと肩書きが変わりました。Windowsのマーケティング担当として、今後もInternet Explorer、そして、Microsoft Edgeに関わっていきますので、引き続きどうぞよろしくお願いします。もちろん、この記事はMicrosoft Edgeから投稿しました 😀

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