佐川 夫美雄

進化の早いMicrosoft EdgeとWebプラットフォーム ~「de:code 2016」セッションレポート ~

連載: de:code 2016 特集 (5)

エキスパートの佐川が、「de:code2016」のセッションレポート、日本マイクロソフトエバンジェリスト・物江修氏の「Developing on the Edge. 〜 WebプラットフォームとCordova 〜」をご紹介します。

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今年の夏、MicrosoftはWindows 10の大型アップデート「Windows 10 Anniversary Update」を予定している。このアップデートで「Microsoft Edge」にも数多くのAPIが追加される。このセッションでは新しく追加されるAPIの紹介と、それらを利用したUniversal Windows Platform(以下、UWPと記載する)、Cordovaアプリケーションの開発ポイントを紹介する。

  • Microsoft EdgeとWindows10のWebプラットフォーム
  • EdgeHTMLの新機能とこれからの方向性
  • Webプラットフォームを利用したアプリケーション開発

Microsoft EdgeとWindows10のWebプラットフォーム

初めに、Microsoft EdgeとWindows 10で「Webプラットフォーム」と呼んでいる事柄についてみていく。すでにご存じのとおり、Windows10には、2つのマイクロソフト製のブラウザが含まれている。Windows10から新しく採用された「Microsoft Edge(以降、Edgeと記載する)」と「Internet Explorer11」である。

Webブラウザが2つ入っている理由は、以下のとおり。

  • Edgeは相互運用性を重視し、最新のWebコンテンツをブラウズするため
  • Internet Explorer 11は過去のバージョンのIE向けに作られたコンテンツを従来どおりに見るため

この二つは物理的に完全に別なものとなっていて、レンダリングエンジンもJavaScriptエンジンも異なる。

EdgeのレンダリングエンジンとJavaScriptの組み合わせが、Windows 10用のアプリケーションを開発する際に使用されるWebプラットフォームになるが、現状、Windows 10で動作するアプリケーションのすべてがEdgeのエンジン(以降、EdgeHTMLと記載する)を利用しているわけではない。

どういう意味か。

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アプリケーションとの組み合わせを見てみる。Windows 10から採用されたUWPアプリケーションは、EdgeHTMLを使用している。しかし、以前の環境で作られたWindows 8系のいわゆるWindowsストア・アプリケーションやデスクトップ・アプリケーションであるWin32アプリケーションは、以前の Tridentを使用している。

新しいSDKに含まれるWeb ViewコントロールはEdgeを使用するようになっているので、もしどちらも選択が可能である場合はEdgeHTMLを使用する。

Windows 10 Anniversary Updateまでに搭載されるEdgeの新機能

ここからは「Windows 10 Anniversary Update」までに搭載されるEdgeの新機能について紹介していく。Edgeのエンジンが、Windows 10でアプリケーションを開発する際に使用するWebプラットフォームの機能になるので、そのままアプリケーションから使用できるようになる。

Edgeの2016年の機能実装を含めた展望については、今年の2月にEdgeの開発者ブログで公開されており、その記事では優先課題とて5つ存在する。(参考までに、日本語の開発者ブログはこちらです)

  1. WebテクノロジとWindowsストアによるモダン拡張機能プラットフォームを提供する
  2. アクセシビリティとインクルーシブ デザインにより、Microsoft Edgeを使うすべての人の力になる
  3. Microsoft Edgeの基本であるセキュリティ、パフォーマンス、効率を引き続き向上させる
  4. Webの未来を見据えて開発する
  5. コミュニティのフィードバックや参加を可能にするチャネルを増やす

まずは拡張機能。ネイティブ形式のアドオンとは異なるWebテクノロジを活用した、開発者になじみのある拡張機能プラットフォームを作成する。現在のInsider Previe版のEdgeでは同じくプレビュー版のアドオンを使用できるようになっている。

次にアクセシビリティ。この項目では「HTML Accessibility API Mappings」と「Core Accessibility API Mappings」への対応、「ハイコントラストのサポート」や「視覚障碍のある方にとっての読みやすさ」や、「フォーカスおよび選択の操作性の向上」などが表明されていた。

基本機能では、「JavaScript エンジンのベンチマークの向上」「さらなるセキュリティの強化」たとえばFlashを別のプロセスに分離し、不要なコンテンツ処理を保留したり、GPUレンダリングの強化などが表明されている。

Insider Preview に搭載された新機能

ここからは「Insider Preview」に搭載された新機能について紹介していく。現在、Insider Previewに実装されていて、実際に試すことができるものが約20個以上、開発中のものを含めると36個くらいあり、しかも、これは現段階のものなので、これからまだ増える可能性がある。

  • Web Speech API (synthesis)
  • Fetch API
  • Beacon
  • Web Notifications
  • WebRTC
  • OPUS open audio
  • VP9 open video playback
  • WOFF File Format 2.0
  • FIDO 2.0 Password
  • Canvas 2D path2D
  • Ambient Light Events
  • Color input type
  • Element
  • Default parameter (ES2015)
  • Destructuring (ES2015)
  • Generators (ES2015)
  • SIMD (after ES2016)
  • Exponentiation Operator (ES2016)
  • Array.prototype.includes (ES2016)
  • Async Functions (after ES2016)

Insiger Previewに新しく搭載された機能をいくつか、デモを交えながら紹介する(この記事ではデモ資料省略)。

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Web Speech API

IETF標準の言語タグである「BCP 47」に対応しており、タグの指定によってさまざな言語の指定ができる。音量、音声、速度はもちろん、SSML (Speech Synthesis Markup Language) を使用して音声合成時の修飾的情報を指定したりもできる。

Fetch API

「Fetch API」は、Webサーバと通信するためのAPIで、Promise ベースで非同期処理を行える。従来の「XMLHttpRequest」の仕様のさまざまな不足分をなくし、より細かい処理ができるようになっていて、将来的に「XMLHttpRequest」は「Fetch API」に置き換わると言われている。「Fetch API」は「XMLHttpRequest」とは異なり「Service Worker」からも使用できる。参考までに「Service Worker」とは、「Progressive Web Apps」というモバイルWeb向けの新しいコンセプトだ。

Web Notifications

「Web Notifications」はユーザーへのデスクトップ通知の設定や表示のために使われるもので、EdgeではWindows 10のアクションセンターと統合される。この通知には、カスタムアイコンやタイトル、メッセージが設定可能だ。Service WorkerとPush APIを組み合わせると、サーバからのPuch通知を受け取って表示したりということが可能になるが、残念ながらこの2つはまだサポートされていない。しかし、ブラウザ上でアプリケーションが稼働状態であれば、WebSocktsやWebRTCの通知を受け取ってデスクトップ通知を表示するといったことが可能だ。

WOFF2.0フォント

WOFF2.0フォントは、従来のフォントファイルのサイズを30%以上多く減らす新しいフォーマットだ。日本語を含むアジアフォントではおよそ50%前後節減できると言われている。現在、Webページの60%以上でカスタムWebフォントが使用されていて、平均的にWebページのサイズの5.3%を占めると言われているので、これをサポートすることでページの表示速度の向上が期待できる。

WebRTC

WebRTCについて。RTCとは「Real Time Cominucation」の略で、プラグインなしでWebブラウザ間のボイスチャット、ビデオチャット、ファイル共有ができる技術がWebRTCだ。Firefox、Chromeは、Edgeに先行してWebRTC1.0をサポートしているが、EdgeはWebRTCの使い勝手を改善したORTCのみをサポートしてた。このWebRTCとORTCは互換性があるので、互いに通信を行うことができるが、さらなる相互運用性を高めるためにEdgeHTML 15では、WebRTC1.0もサポートすることになった。

RTCの相互間運用性

APIサポート ORTC WebRTC
EdgeHTML13 Yes No
EdgeHTML15 Yes Yes
Codecサポート H.264 UC H.264 VP8
EdgeHTML13 Yes No No
EdgeHTML15 Yes Yes Yes

その他

そのほかにもオーディオ用の高い圧縮フォーマットであるOpusや動画圧縮コーデックのVP9、細かい時間の計測に使用される「High Resolution Time」のLebel2や、フォルダのドラッグ・アンド・ドロップ、Webブラウザで生体認証を行うためのFIDO(ファイド)2.0、それからBeacon、アクセシビリティ関連のエレメントなどなど多くの機能がサポートされる。

ハイブリッド・アプリケーション

説明した機能は、ハイブリッド・アプリケーション開発用の様々なフレームワークを使用することで、スマートフォンやデスクトップのアプリケーションとして利用することができる。ここからは、Webプラットフォームを利用したアプリの開発について紹介していきます。

ブラウザで動作するWebアプリケーションを、ハイブリッド・アプリケーション化するメリットは3つほどあります。

  • オフライン
  • アプリストアのエコシステム
  • プラットフォーム/ハードウェアの機能

もう少し待っているとEdgeでもService WokerがサポートされてWebアプリケーションでもオフラインの利用が可能になるので、実際にアプリケーション化するメリットというのはアプリストアのエコシステムを使用するとか、Webブラウザでは使用できないハードウェアの機能を使用するということぐらいに差が縮まる。

このハイブリッド・アプリケーションの形式には、Packageアプリケーションと、Hotedアプリケーションがある。Packageは、オフラインで利用可能。サーバサイドのリソースががならずしも必要でない。Hostedは常に最新のコンテンツで実行でき、開発の一元化が可能だがオフラインでの使用が前提となる。ざっくり言うとコンテンツの配置場所くらいしか違いはない。

Universal Windows PlatformとCordovaを利用したHostedアプリケーション

UWPとCordovaで、どのようにHostedアプリケーションを作るか、というのを紹介する。

UWP

これがWindow 10に用意されている、アプリから使用可能なOSリソースだ。プッシュ通知や、タイルへの情報表示、予定表、アドレス帳へのアクセス、Cortana連携とWindowsランタイムを使用し、さまざまなハードウェアにもアクセスできる。作成は

  1. package.appmanifestの[アプリケーション]タブで[スタート]を指定
  2. [コンテンツURI]タブでWinRTへのアクセスを設定
  3. 使用しないファイルを削除

Cordova

Tools for Apache Cordovaが提供する機能は

  • ターゲット
  • ビルド
  • デバッグ
  • エミュレータ
  • コード補完

がありiOSアプリケーションに対するビルドにはMacが必要ではあるが、ほとんどの環境(Android系/iOS系/Windows系)で実行可能だ。CordovaにおけるHostedアプリケーションの作成は以下の3つで行っていく。

  1. config.xmlの編集
  2. www¥scripts¥index.jsの編集
  3. index.htmlの編集

尚、Apache Cordovaを使用したホスト型Webアプリケーションの作成についてはこちらの資料を見るとよい

Visual Studioで提供されている検証環境

  • Ripple
  • Android
  • Monaca Debugger(iOS/Android)
  • Windows Phone

その他、Mac OS用、リモートエージェント、Mac in Cloud(Mac OSのホスティング)などがある。

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最後に、Webプラットフォームについてということと、この夏に向けていろいろなAPIが出てくる。そして、Webではできないことができるようになると物江氏は締めくくり、Microsoft Edgeのすぐそこにある未来について熱く語ってくれた。今最も熱いブラウザは「Microsoft Edge」ではないだろうか。

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