2016年5月18~20日の3日間、Googleの本社ビルのすぐそばにあるショアライン・アンフィシアターでGoogle I/O 2016が開催されました。
例年5千名程の参加者から大幅に増えて、今年は実に約7千人の人々が参加していたようです。屋外イベント施設ということもあり、まるで野外フェスのような雰囲気でした。
本レポートではGoogle I/O最初のセッションである、基調講演の内容について紹介します。
Google Assistant
まず最初にスンダー・ピチャイ氏に紹介されたのが、Google Assistantです。
Google Assistantは新しい対話型のボイスアシスタント機能です。Google製のアシスタント機能といえばGoogle Nowがありますが、これを進化させ、対話型のシステムとしたのがGoogle Assistantのようです。コンテキストを認識し、ユーザーが質問すると現在地や直近のクエリーなどに応じて、適切に答えを返します。
例えば、有名な建築物の前で「これを設計したのは誰?」と質問すると、その場所の情報に応じて回答してくれます。
デモでは、ユーザーが「今夜やってる映画は?」と聞くと、Google Assistantは近くの映画館で上映しているタイトルをいくつか提示し、さらにユーザーが「子どもと一緒に行きたい」と言うと、子どもと一緒に鑑賞するのにふさわしいと思われる映画を提案していました。さらに「4枚チケットが必要ですか?」とGoogle Assistantが尋ねてくるので、ユーザが映画のタイトルや枚数を答えると、自動で予約し、チケットの情報を提示する、というデモが行われました。
このように、『提案をしてくれる』というのがGoogle Assistantの大きな特徴です。Google Assistantは基調講演の中で発表されたGoogle HomeやGoogle Alloなどの製品にも組み込まれるようです。
Google Home
続いてGoogle Assistantの機能を組み込んだGoogle Homeという製品が紹介されました。
Google Assistantのボイスアシスタント機能の他にWifiスピーカーとしての機能もあり、クラウドから音楽のストリーミング再生もできるようです。プレイリストやアルバムへのアクセスもボイスコントロールでき、Google Castを通して、AndroidやiOSのデバイスから音楽を送信することもできるとのことでした。
Amazon Echoと似たような製品のようです。大きさは手のひらに乗るくらいの小さなデバイスでした。今年の後半から使えるようになるとのことです。
Google Allo
次にAlloというモバイル用のメッセージングアプリが紹介されました。見た目はLineやFacebook messenger等と大差なく見えます。
文字や絵文字の大きさを自由に変えることができることが紹介されました。地味だが良い機能、ということで会場が少し盛り上がります。
しかし当然のことながら、ただのメッセージングアプリではありません。このAlloにはGoogle Assistantの機能が組み込まれており、なんとチャットのテキストや画像を解析して、返信用のテキストを複数提案してくれます。
例えば「Dinner later?」とチャットの相手が送ると、「I’m in!」「I’m busy」という返信用のメッセージが表示されます。ユーザは選んでクリックするだけでメッセージを送信することができます。
またチャット内の画像も解析されるので、誰かが犬の写真をアップロードすると、犬種も識別された上で、「Cude dog!」「Aww!」「Nice bernese mountain dog」といった返信メッセージが提示されます。
またGoogle Asisstantのbotががチャットの中に存在するようなかたちになっており、店のお店のサジェストや予約、検索等も対話形式でチャットの中で行うことができるようです。
さらにChromeのようにIncognito Modeが搭載されており、エンドツーエンドでの暗号化やNotificationの制御、メッセージの期限などを設定できるようになっているとのことです。
Google Duo
続いてDuoというビデオチャットアプリの紹介です。
ビデオチャットを実現するアプリは数多く世に出ていますが、このDuoにはビデオコールをかけられた側は、応答する前にそのビデオストリームを見ることができるという特徴があるようです。この機能は『Knock Knock』と呼ばれているそうで、これにより着呼側は誰が、どんな状況でコールしてきたのかを知ることができます。
コール先は電話番号に紐づくとのことで、AppleのFaceTimeの競合として考えられそうです。
DuoはWebRTCとQUICを使用したWebプロトコルベースのアプリと紹介されました。
AlloとDuoはAndroidとiOSで2016年夏頃リリースされる予定で、Android版では事前登録が開始されています。
Android N
続いてAndroid Nについての発表が行われました。
GoogleがAndroidの開発を行うようになってから、10年が経過したようです。今やAndroidはスマートフォンだけではなく、Android Wear、Android TV、Android Autoなど、多くのプラットフォームが登場しています。
Androidの最新バージョンであるAndroid Nは現在プレビュー版(6/28現在Developer Preview 4)が公開中です。こちらで名前の募集も行われていましたが、現在は終了し近日中に公開されるようです。
Android Nでは、新しいOSのアップデートがあると、自動的にソフトウェアをバッググラウンドでダウンロードし、次回Androidの電源を入れた際にシームレスで新しいソフトウェアイメージに切り替わるようです。
またマルチウィンドウが正式に採用され、スマートフォンでYoutubeを見ながら他のタスクを行ったり、Android TVでは映像を見ながら検索などの他の作業を行うことができるようになります。
現在はAndroid NのDeveloper Preview 4がリリースされており、Nexus 6やNexus 5X等の一部の対応した機種であれば、Android Nを試用することができます。(Android Developers Blog)
Daydream
続いてI/O開催前から噂が絶えなかったVRに関する発表です。
Androidスマートフォンで高品質なVR体験を提供可能であるDaydreamというプラットフォームが発表されました。
どのようにAndroidスマートフォン上で、高品質なVR体験を可能にするのか、講演では3つの要素が挙げられていました。 まずはスマートフォン本体、次にヘッドセットコントローラのリファレンスデザイン、そしてアプリで、ぞれぞれが協調してエンドツーエンドのユーザ体験を提供するために設計されています。
ハイパフォーマンスセンサーやヘッドトラッキング、表示のレスポンスの速さなど、VR用に作られた仕様を満たしたスマートフォンは、Daydream-readyと呼ばれ、高いクオリティのVR体験を提供することができます。Daydream-readyなスマートフォンは、SamsungやAlcatel、Asusなどの企業から、2016年秋以降リリースされるようです。発表された中に日本の企業はありませんでした。
リファレンスデザインとして紹介されたヘッドセットとコントローラは非常にシンプルなものでした。コントローラはボタンは少なくクリッカブルなタッチパッドがついており、スクロールやスワイプができます。オリエンテーションセンサーも内蔵しており、ユーザがどこをポインティングしているかが分かります。
アプリに関しては、VR用のGoogle Playが開発されており、ユーザーがアプリを探し、購入、インストールがVR上で可能になることが発表されました。またGoogle Play MoviesやGoogle Mapsのストリートビュー、Google Photos、YouTubeもVR上で鑑賞できるようになります。
Daydreamが使えるようになるのは2016年秋になるとのことですが、Android NのDeveloper Previewを使用することでアプリなどの開発は今から行うことができます。
Android Wear 2.0
Android Wearは2年前のGoogle I/Oで初めて発表されましたが、今回は初めて大幅なアップデートとなるAndroid Wear 2.0が発表されました。
大きな変化としては、今までAndroid Wearのアプリがインターネットにアクセスするためには母艦となるAndroidやiOSスマートフォンが必要であったことに対し、Android Wear 2.0ではスタンドアロンで動作することが可能になることが挙げられます。アプリが直接BluetoothやWi-Fi、LTEなどを通してインターネットにアクセスできるようになり、ペアリングされたスマートフォンが電源を切っている場合でも、アプリは引き続きフル機能を提供できるようになります。
その他にもUIの刷新や、手書き入力の対応等も発表されました。
Android Wear 2.0はプレビュー版が公開されおり、秋には正式リリースとなるようです。
Progressive Web AppsとAccelerated Mobile Pages
基調講演も終盤に差しかかり、ここで初めて、わずかですがWebについての発表がありました。 モバイルデバイス上でWebをより快適にするための取り組みとして、Progressive Web AppsとAccelerated Mobile Pagesの2つの紹介です。
Progressive Web Apps、略してPWAppsは、オフライン状態でも動作可能、エンゲージメントを高めるための通知、ホームスクリーンにアイコンを登録、といったネイティブアプリのような振る舞いを実現したWebアプリのことを指します。ChromeにはServiceWorkerをはじめとする、Progressive Web Appsを実現するための仕組みが実装されています。
Accelerated Mobile Pagesは、既存のWeb標準に基づいた非常に速いモバイルWebサイトを作るための、オープンソースのプロジェクトです。
特に新規発表はなく、基調講演内ではわずか1分程度の紹介でしたが、Google I/O全体では多くのPWAppsやAMPのセッションが行われていました。HTML5 Experts.jpでもGoogleが新たに提唱するProgressive Web Appsの新たな開発パターン「PRPL」とは?という記事を公開していますので、そちらをご覧ください。
Android Studio
Android Studio 2.2 Previewが公開されたと発表がありました。
Android Studio 2.2では、ビルドが10倍、エミュレータも3倍速くなっているそうです。また、新しいレイアウトデザイナやAPKアナライザーが搭載されるとのことでした。
Firebase
続いてFirebaseの新バージョンが発表されました。
FirebaseはGoogleが2014年の10月に買収したBaaSサービスです。モバイルアプリに特化した分析ツールである、Firebase Analyticsが発表されました。ユーザがアプリ内で何をしているか、ユーザがどこからきたのかなど分析することが可能です。Android AnalyticsはAndroidでもiOSも扱うことができ、無制限に無料で使用することができると発表されました。
Android Instant Apps
今回の基調講演の後半で一際注目を集めたのがこのAndroid Instant Appsではないでしょうか。
Webアプリの場合、ユーザはリンクをクリックするだけでアプリを使用することができますが、Androidアプリはインストールを必要とするため、ユーザがそこで離脱してしまうことが多くあります。その課題を解決する一手となるのが今回発表されたAndroid Instant Appsのようです。
今回発表されたAndroid Instant Appsでは、AndroidアプリがWeb等のリンクからインストールレスで使えるようなるとのことです。
講演中のデモの中では、いくつかのAndroidアプリをURLから起動し、実際にアプリを使用できることが示されていました。 アプリの中の直近で必要になるモジュールだけをフェッチしているらしく、起動も素早く行われ、アプリを使用してからのインストールも非常にスムーズに行えるようです。
これにより、Androidアプリ開発者は、より多くのユーザにリーチできるようになります。AndroidアプリとWebとの親和性が高くなり、Androidアプリのユーザ体験が大きく変わる機能となるのではないでしょうか。
おわりに
今年はGoogleのAIの技術力を発揮した製品やサービスが多く発表されました。
基調講演内でWebやChromeに関する発表は非常に少なかったのですが、Google I/O全体では33ものモバイルWebに関するセッションが行われていました。
既に公開されている
- 今、Webの最先端では何が起こっているのか?──最新機能目白押し!Google I/O 2016セッションレポート【前編】
- Webの最先端では何が起こっているか、今Googleが取り組んでいることは?──Google I/O 2016セッションレポート【後編】
- Googleが新たに提唱するProgressive Web Appsの新たな開発パターン「PRPL」とは?
以外にもセッションレポートを公開していく予定です。お楽しみに。