夏野剛・及川卓也・白石俊平が語る「WebRTCが切り拓く2020年のIoT」~リアルタイムコミュニケーションがもたらす破壊的イノベーション~

2月16日・17日と2日間にわたって「WebRTC Conference 2016」が開催されました。「2020年」と「IoT」という2つのキーワードを軸に、リアルタイムコミュニケーションがもたらす破壊的イノベーションについて語られた「WebRTCが切り拓く2020年のIoT」。
HTML5 Experts.jp編集長・白石俊平氏をモデレーターに、夏野剛氏・及川卓也氏を特別ゲストとして迎えての特別セッション。今回は講演内容をほぼ再現版としてお届けいたします。

夏野剛氏、及川卓也氏、白石俊平氏が縦横無尽に語り合う

白石:まずは、登壇者のご紹介から。慶應義塾大学 政策・メディア研究科 特別招聘教授の夏野剛さんです。あまりご存じない方も多いかもしれませんけど、夏野さんはW3Cのボート(幹事)をずっとやっていらっしゃったんですよね。4年間ぐらいでしたっけ。

夏野:はい。2期、4年やってました。大変でした(笑)。

白石:本日はそうした標準化団体に深くコミットしていらした方として、WebRTCについて語っていただきたいと思います。

夏野:ちなみに、W3Cの設立メンバーが慶應大学なんですよね。ファウンディングメンバー。で、村井先生に「ボードやれ」って言われて、立候補したという。

白石:次に、Increments株式会社、プロダクトマネージャーの及川卓也さんです。この、WebRTCに関する対談については、前職のGoogleで、Google Chromeの開発に携わっていらっしゃったということで、実装面などについてもお話いただきたいと思います。

及川:Incrementsは「Qiita」というプログラムの情報共有サービスを提供しています。もう辞めちゃったんですけど、Chromeのエンジニアリングマネージャーも、結構大変でございました。楽しかったですけど(笑)。

慶應義塾大学 政策・メディア研究科 特別招聘教授 夏野剛氏
早稲田大学政治経済学部卒、東京ガス入社。ペンシルバニア大学経営大学院(ウォートンスクール)卒。ベンチャー企業副社長を経て、1997年NTTドコモへ。99年に「iモード」、その後も多くのサービスを立ち上げた。2008年にドコモ退社。現在は慶應大学の特別招聘教授のほか、カドカワ、トランスコスモス、セガサミーホールディングス、ぴあ、グリー、DLE、U-NEXTなどの取締役を兼任。09年から13年までHTMLの標準化機関であるW3C(World Wide Web Consortium)のアドバイザリーボードメンバーを務める。

Increments株式会社 プロダクトマネージャー 及川卓也氏
早稲田大学理工学部卒業後、外資系コンピューター企業の研究開発、マイクロソフト株式会社(当時)の日本語版・韓国語版Windowsの開発統括を経て、グーグルでプロダクトマネージャとエンジニアリングマネージャを務める。2015年11月よりIncrementsにてプロダクトマネージャとして従事。

株式会社オープンウェブ・テクノロジー代表取締役CEO 白石俊平氏
エンジニア、コピーライター。日本最大のWeb技術者コミュニティhtml5jを5年間リードした後スタートアップを創業、テクノロジー分野に特化したキュレーションサービス「TechFeed」を2015年12月にリリース。日本の開発者の役に立つべく、プロダクトマネージャー兼CEOとして奔走中。「HTML5&API入門」(日経BP)など、著作執筆多数。Web技術者向けメディアHTML5 Experts.jp編集長も務める。

WebRTCをどう見るか?

白石:まず最初のテーマは「WebRTCをどう見るか」です。本日のセッションテーマは未来感のあるものが多いので、ビジョン的なお話をお聞きしたいなと思っています。

及川:基本ポジティブですね。少し前だと、音声やビデオのカンファレンスをやろうとすると、Flashを使わなきゃいけない時代もあった。あれって結構面倒くさいんですよね。音声やビデオで軽く会議をやろうとした瞬間に、プラグイン入っていないから、インストールしてくださいって表示されたりして。そのためのセットアップで、少なくとも1分とか2分経ってしまったり、下手するとブラウザをリロードしなくちゃいけなかったり。

普通のテキストチャットと同じぐらいカジュアルなコミュニケーションができるようになったのは、WebRTCのおかげです。今後はどんなブラウザでも使えるようになっていく、という意味で非常にポジティブかなと。一方でっていうことが、ちょっとあるんですけれども、その前に夏野さんのご意見も聞きたいと思います。


夏野:今及川さんが言ったみたいにパソコンをベースにしてWebで何でもできちゃうと、ソフトをダウンロードすることはほとんど要らなくなって、せいぜいプラグインくらい。そのプラグインすらもHTML5になってくると、ほとんど要らなくなるっていう世界になってきた。

そんな理想型に進んでるのに、スマホが出てきたことによって、状況が変わってきた。スマホが出てきてから5年ぐらい経ちますが、その間にWebの勢いって1回萎えているんですよ。理由は簡単。ネイティブアプリで遊ぶほうが忙しすぎて、Webなんか立ちあげている場合じゃないから。

ネイティブアプリにする理由の一つは、グラフィックスの性能。もう一つはこれ、まさにリアルタイムコミュニケーションなんですよね。このWebRTCをきちんとスマホまで含めて、マルチデバイスで広がっていくと、かなり開発者の負荷も減らせるし、サービスの性能も向上することにつながると思っています。いち早くモバイルも巻き込んだ中で、WebRTCがどんどん広がっていくことを切望しますね。

「相互運用性」という課題

白石:なるほど。たしかにWebRTCはマルチプラットフォームや、マルチデバイスといったところでは、結構強みがあると思います。及川さんの言いかけたお話を。

及川:そういう意味で言うと、プラットフォーム、相互運用のところのレイヤーが1つ上がったかたちになっていくと思うんですよ。どのブラウザでも使えるということは、すごい貴重な技術であるのと同時に、もしかしたらロックインされるだとか、相互運用性までを考えないといけない。

例えば、WebRTCを使ってビデオカンファレンスができるかっていう話になったときに、実装依存の部分がたくさんあるわけですよね。おそらく制御のところだったり、ビデオコーデックなんかは、現状すべてのブラウザに当てはまるところはないんじゃないかな。もちろん、相手に合わせて変えるっていうのは実現可能だと思うんですね。GoogleもWebRTCを使ったそういったサービスを出しています。

一方、Facebookのチャットからビデオメッセージやビデオチャットをやりたいといっても、ハングアウトにはつながらないし、(別サービスとは)つながる世界が想像できないわけですね。これって、どっかで見た、過去で見た、未来なんですよ。どういうことかと言うと、シンプルなテキストチャットのときもそういう議論はたくさんあったんですね。

Yahoo!メッセンジャー、AOLメッセンジャーと、MSNのメッセンジャーと、Google Talkをつなげたいよね、という流れになり、ちゃんと仕様を考えましょうということになった。IETF(Internet Engineering Task Force)で、XMPPだとかSimpleが候補に上がりました。陣営二つに分かれちゃったわけですけれども。

Googleはその部分、なぜか知らないけど、すごい積極的にやっていいます。Google Talkは、XMPP完全準拠でJabberというかたちにして、ほかのJabberのサーバーにもつなげられたのに、結局はGoogleもシャットダウンしちゃった。相互運用ができる状況じゃないと。

なぜならば、技術以前にソーシャルグラフというか、ユーザーのデータベースをわざわざ相手に開放したくないわけですよね。なので、この部分まで含めてWebRTCに期待するとしたら、それはちょっと厳しいところもあるし、どこまでの部分をコモディティ化していくか、という課題があるかなと。

本当は全部相互運用ができたほうがいいのだけれども、そこにいくまでには、過去の歴史を見ても、なかなか厳しい現実問題としてある。さっき「でも」というところでちょっと言いたかったことです。

GoogleがWebRTCを立ち上げた背景とは

白石:なるほど。ちなみにWebRTCって、もともとの出自はGoogleさんがオープンソースでwebrtc.orgを立ち上げたところからかなと思うんです。それ、間違いないですか?

夏野:たぶん、それが最初だったと思いますよ。

白石:どういうビジョンを持って、このプロジェクトを始められたのでしょうか。

及川:理由は非常に単純で、Googleも要はすべてWebでやりたいわけですよ。

白石:検索とか広告とか、そういったところにつなげるためでしょうか。

及川:それは、ビジネスモデル的には、当然あるとは思います。だけど、Googleって恵まれた会社で、8割以上のエンジニアは、お金のことを全く考えなくていいんですよ。

で、「あなたたちの役割というは、インターネットが健全に発展するためのものです」と。そのネイティブで持っているアプリケーションが使える機能をそのままWebでも使えるようにするために、HTML5を含め、いろんなことをやっていたんですね。

最初は、Canvasだってもともと使えなくって。Canvasが使えないと、この2次元対応で1点から1点までの線を引くことすらできなかったわけですよね。そこから始まり、ちゃんと3Dができるようになり、全部やっていったあとに、自然にビデオカンファレンスだとか、リアルタイムコミュニケーションだとか、そういったものができて当たり前という時代になったんだと思うんです。

白石:なるほど。

夏野:僕も標準化の現場にいたのでわかる。面白いのは、Googleってライトサイドのプレイヤーなんです。

白石:ダークサイドの逆ですね。

夏野:ダークサイドもいるんだよね(笑)。つまり、ネットの中立性とか、ブラウザがみんなに使われるとか、相互運用がどうのとか、そういうこととは、逆のことを考えている会社もいろいろあって、面白いですよ。

白石:そういうダークサイドな会社が、W3Cにいるところが面白いですね。

夏野:それ以上聞かないで(笑)。最近はいなくなりましたけど、10年前は大変でした。

Webですべてを完結する世界は作れるか

白石:僕、さっき及川さんのお話を聞いて、及川さんが昔講演でおっしゃっていたことを思い出しました。デスクトップアプリケーションで起きた最後のイノベーションはSkypeで、そのあとはずっとWebで起きているみたいな話を5年前にしてたんですよね。そのSkypeが今ようやくWebの補完をしているんだなって。覚えていらっしゃいますか、そんなことを言っていたのを。

及川:そうですね。もう少し補足で説明すると、Webというのはもう多くのユーザーが使っていて、プラットフォームになっています。それをあえてリマインドするために、横軸に時系列で、1990年、2000年、2005年で振り返ってみたんです。

昔はデスクトップ系のちゃんとインストールして使うようなアプリケーションがたくさんあった。それが、2005、2006年からを境に、TwitterやGoogleMap、YouTubeなどのサービスが出てきた。この違いは何かというと、ここから先は「Webですべて完結するようになっているんですよ」、という話は、僕の持ちネタですね(笑)。

夏野:それと同時期にスマホが流行ってきた段階で、Skypeはアプリを出すのが、結構遅れたんですね。結局、FacebookやTwitterはアプリを出して、よりモバイルのほうにユーザーが寄っていった。ここがまた微妙なところで、PCのほうが進んでいるのに、スマホが出てきて逆転されている。これからの大きな課題なんだろうなと思ってます。もうモバイルの世界は、どんどんネイティブの世界にいってるんですから。

白石:また(ネイティブ→Webという)歴史は繰り返すのか、というとちょっと疑問ですね。スマホもWeb中心になっていくのかというと、今のところそうとも思えない。

及川:モバイルのネイティブアプリだけじゃ解決できないものもあります。まず、ユーザーにインストールしてもらえない。インストしたとしても使えない、という壁が二つあるんですね。

例えば、よくあるグルメの人気アプリ。この近くに何か美味しいお店がないかなと考えたときに、ユーザーがぱっと思い浮かぶのは日本を代表するサービスのサイトなんですね。トップ、2番目、3番目、4番目…までインストしてもらうのは難しい。自分のサービスがグルメ業界の4番目だったとしたら、まずはインストしてもらうことが第一の壁です。

さらにその4番目をインストしてもらったとしても、お店を探したときに、1番目、2番目、3番目で解決しちゃったなら、4番目なんて使わないわけですね。するとインストしても使わないわけです。実際には、検索したほうが便利なことがたくさんありますね。検索して、上から本当にいいものって選んでもらったり、もしくは検索したときにそのサービスが気に入ったら、そこからインストしてもらう導線を張ればいいと。

なので、Webとモバイルはハイブリッドにやったほうがいいんじゃないかと。deep linkingだったりだとか、app indexingだったり。

あとは機能面ですね。Geolocationはモバイルのほうが優れているし、昔はブラウザで正確にとることができなかった。だからGoogleみたいなブラウザベンダーが追い付こうと頑張った。でもそうこうしているうちに、モバイルのほうもパフォーマンスだとかUXだとか、機能面でも追いつこうとしているところだと思います。

白石:なるほど。WebRTCも当然ながらも、デスクトップアプリやモバイルアプリしかできなかったリアルタイムコミュニケーションを、Webに載せていく流れになるわけですね。

IoT・ロボティクスとWebRTCの未来は、民主化するイノベーションになるか

白石:次のテーマは、「IoTやロボティクスとWebRTCの未来」です。

夏野:IoTやロボティクスというと、Webとあまり関係なさそうな感じもするんですけど、実は密接に関係している。結局このセンサーというのは、それ自身がコミュニケーション、特にリアルタイムコミュニケーションすることが前提で作られているからです。

じゃあ、すべてのデバイスごとに全部クライアントを作るのか、みたいな話になってくるわけですけど。受け側はWebでいいわけですね。実際、受け側はRTCでやる。実は、RTCの相手先としては、もうこのセンサーやロボティクスとか、いわゆるIoT系は、見逃しちゃいけない。それどころか、それをメインに考えてもいいんじゃないかと。

及川:去年、慶應大学SFCのORF(オープンリサーチフォーラム)で、村井純先生がギター弾きたくなったという理由で開催されたイベントがあったんです。いきなり「及川さん、ギター弾かないか?」というメールがきて、「はい」って言っちゃったら、ニコ生で全国中継されるっていう(笑)。そのとき東京ビッグサイトか何かでやっていた楽器フェアとニコファーレをつないで何かやろうとなったときに、WebRTCを使ったんです。そこで面白かったのが、Web MIDIやWeb Audioを活用したORFを使ったこと。Web MIDIは電子楽器をつなぐための規格で、楽器をWebのシーケンサーから鳴らせるものなんですけど、ほかの用途にも使えちゃうんですね。

要は、MIDIでデバイスをコントロールするように、MIDI信号を理解してデバイスが動くようにすることができるわけです。今までの技術の歴史を見たときにも、本来と違う使われ方をして、いろんな技術革新が起きていることっていうのはたくさんあります。民主化するイノベーションというのがあって、本来のベンダーが想定したものとは違ういろんなかたちに、クリエイターやユーザーが発展させていくことがある。WebRTCというか、Web MIDIというのもその一例であり、そういった想定外のケースが出てきても面白いんじゃないかなと思いますね。

リアルタイムの強みをWebRTCはどう切り拓くか

夏野:今の話で感化されて、思い出したことがあります。インターネットが出てきて、動画のアーカイブができるようになったことは、最大のメリットだと、みんな思っているんですよね。つまり、テレビと違って縛られないから、いつでも自分のタイミングで、好きなときに動画を見たり、情報を入手できる。

これがインターネットの最大のメリットだったはずなのに、さっきの村井先生のコンサートや演奏みたいなものは、アーカイブで見ようとする人があんまりいないんですよね。リアルタイムで見るほうが価値があるという、不思議なことが起こっていまして。ニコニコはライブ配信したものを、後からタイムシフトというかたちで見たり、アーカイブにして見たりすることができるんですが、ほとんどの動画でリアルタイムで配信するほうが視聴者多いんですよ。

YouTubeは世界的にダウンロード型で成功している話はありますが、感動のレベルっていうのは、やっぱりリアルタイムのほうが大きいんです。これ、ちょっとジレンマというか、ネットのジレンマなんですけどね。いわゆるネットのよさをある意味放棄しているわけですよね。

ニコニコが何でそうなるかというと、コメントが書けるからなんです。リアルタイムで行ったものに書き込むのと、アーカイブで見ているものに書き込むのでは、盛り上がりが違うんですね。今、この瞬間に、何万人が、俺のコメント見ている、こういいうのを書いたよ、という満足感が違うみたいななんですよ。だから、YouTubeとニコニコというのは、全然違うものとして、完全に両立していて、ユーザーは使い分けちゃうわけなんですけども。そういう世界がWebRTCでも繰り広げられていくんじゃないかって思います。

白石:面白いですね。Web系の標準化技術は、コモディティ化みたいなインパクトが、割と強調されている。今まですごいお金かかったものが安くできますよ、誰でもできますよみたいな価値観ではなく、リアルタイムならではの価値観というか、リアリティみたいなところの面白さや価値はあるのかもなと、ちょっと思いましたね。

夏野:一方で注意しなきゃいけないのは、アメリカはやたらとみんな、パソコンの前に座っているんですよ。自分のオフィスでも、プライベートでも。だから、このRTC系のアプリケーションがいっぱい出てくる。SNSもそうだけどね。それがゆえに、Facebookはモバイル対応遅れたっていう話もあるんですけど。一方で、日本はどうかというと、エンジニアは結構PCの前に座っているけど、それ以外の人はもう基本スマホじゃないですか。だからこそ日本が率先して、モバイルとWebを覆うようなRTCのアプリケーションとか、仕様を決めていくのが重要なんじゃないかと思うんです。

白石:そういう違いもあって、日本人がよくTwitter使うのかもしれないですね。テキストベースで軽いから、リアルタイムで接することができるし。

及川:やっぱり、Webってリアルタイムじゃなかったんですよね、ずっと。Webのもともとのオリジンが情報じゃないですか。いわゆるHTMLやCSS、Googleドキュメントとか、情報の多くはめちゃくちゃドキュメントなわけですよ。リアルタイムで複数人数がコミュニケーションできるようになってきたとはいえ、どこか静的なものであったり、もしくは動的だといっても限度があったところだったんですよね。だから、リアルタイムでやりとりできるWebRTCが入ってきて、今までのWebの要素技術とどう組み合わせるかということを、考えてはじめているんじゃないかな。

WebRTCのほうに期待したいのは、今までのWebのコア要素の何かをちゃんと生かせるようなこと。Webのいいところは、マッシュアップだなと。WebRTCをいかにもっとWeb化するかというところに、方向性、将来の発展を考えていくのも面白いんじゃないかなと思います。

IT企業の経営者は『攻殻機動隊』を読むべき!?

白石:なるほど、たしかにマッシュアップはありですね。ところで話は変わりますが、遠隔地でロボットを操作したり、触覚とかも再現するみたいな面白い映画があるそうですね。

夏野:『サロゲート』という最近のアメリカ映画で、ロボットが人間の社会生活のすべてを代行する近未来を描いているんです。ロボットが生活しているから、何かあってもオペレーターである人間は安全という話なんですが、こういう考え方ってすでに『攻殻機動隊』で描かれているんです。

1989年の漫画なんですけど、現在SFで語られているほとんどすべての要素は、全部1989年の日本のコミック漫画に入っているというのは、すごいですよね。だから、僕は、すべてのIT企業の経営者は『攻殻機動隊』を読めと言っています。残念ながら読んでいる人はほとんどいないですね。

及川:医療なんて『da Vinci』でしたっけ。医療ロボットがあるじゃないですか。WebRTCで遠隔医療というかたちを提供できるならば、非常に役に立つだろうのもあるんじゃないかなと。

コミュニケーション・SNS と、(Web)RTCの未来

白石:次のテーマは、「コミュニケーションSNSとWebRTCの未来」です。今のコミュニケーションって、基本的には非同期で、ほぼリアルタイムじゃないものがメインだったと思います。でもTwitter等もどんどんリアルタイム化していって、さっきのニコニコの話も出ていましたが、リアルタイムのコミュニケーションの分野にも進化を掘り起こすのではないかなというお話です。

夏野:SNSの使い方はリアルタイム型に変わってきましたね。Facebookを見ていると、もう誰がオンライン中かわかってしまう。その人からすぐに返答が返ってこない時点で、それが一つのメッセージになっちゃいますよね。

白石:たしかに。

夏野:奥さんや上司からの連絡に、オンライン状態にあるのに返事がないと、非常に面倒くさいことになるよね(笑)。でも時代の流れとして、やっぱり同期するほうに向かっている。だから、LINEの既読というのはウザがられながらも、貴重な機能として、みんな受け入れられているんだと思う。

ウザがられても受け入れられるのは、すべてのアプリケーションがそうなってく可能性であって、面白いですよね。昔、携帯電話が出てきたときに、ほとんどのサラリーマンが嫌だと言ったんですけど、みんな受け入れました。だから、もう受け入れた上で何ができるかを考える方が生産的ですね。

及川:ツールとして本来目的にしていることと、どう使われるかかにずれが出てくることがありますよね。本来、同期型リアルタイムであるチャットを今言ったみたいに、既読だとかを一切抜きにして言うと、それをリアルタイムとか同期型に使わないことも増えてきていると。

その象徴が、エンジニアの方はよく使っていると思われるSlack。Slackは基本チャットなんだけど、普通のチャットと言われるには、非常に違和感を感じます。もちろんな同期型のコミュニケーションのフロー型と言われ、ストック型じゃないとは言われているんだけど、一方でストック的にも使えたりとか、非同期的なコミュニケーションもしっかりできる。ある時間をすぎると勝手にスリープモードに入るようになったりする機能が入ったりしていて、コミュ障のエンジニアに優しいようなところがあったりする。

だから、RTCもリアルタイムということと、もう一つの非同期と言う言葉が、必ずしも一緒じゃないんじゃないかなと思うんですね。

ビデオ会議はWebRTCでどう変わるか

白石:ちなみに、お二人は海外の方とテレカン(teleconference)やビデオ会議を結構されてたと思うんですが、そういった観点でWebRTCは、どうなんでしょうか。

及川:電話とビデオが入ったものとの違いは、すごく大きいんですよ。やはり、その五感が伝わったほうがコミュニケーションしやすい。映りたくないからビデオをOFFにしますって、やった途端にその人のプレゼンスは、その会議で下がっちゃうんですよね。顔がちょっと映るというだけでも、バリューはかなりのものがあると思います。

ただし、こういったインターネットのコミュニケーションは技術が発達したとしても、現地に行かなければだめなことが、山ほどあって。常にマイクとカメラがあるわけではないという話もあるですが、要は時差ですね。その人と同じ時間帯でどのぐらい働けるか、空気を共有できるかというのは、絶対にインターネットとかIT技術では解決できない。なので、RTC的なものがどんなに発達したとしても、フェイストゥフェイスでの重要性というのは、まあ、なくならないのかな。いいのか、悪いのか、ちょっとわからないですけど。

白石:フェイストゥフェイスはビデオ会議よりも、同じ部屋にいたほうが伝わるものが多いというのはありますね。顔も見えているし、表情も全部見えているのに、何か伝わらないみたいな。そういう感覚はありませんか。

夏野:それは技術的な問題もありますが、面白い話があるんです。Haloというテレビ電話会議のシステムをHPが販売していたんですよ。実は、これを開発したのが映画会社。離れた場所での会議でもリアルな感覚を伝えるために、スクリーンに映る顔のサイズが、本当に座っているのと完全に同じように映るような仕組にした。ここで見ると、向こう側に本当に人がいる感じががある。

イスとか机も、全部そろっていて4カ所までつなげる。4カ所つなぐと、円テーブルに座っている感じにちゃんと映るようになっていて、上のモニターは資料とかを映すんですね。この3面で誰が誰を見ているのが、完全にわかります。これ、飲み会できますよ、マジで。でもこの仕組が異常に高いので、WebRTCが必要なんです。

白石:人間はサイズとか、目線とか、そういう情報からもいろいろ得ているんですね。WebRTCは、それを再現できると。

夏野:これはすごいよくできていますよ。

及川:でも、逆もあるかなと思うんですね。リアルには会わないということ。いくつか軸があるんですけど、一つはリモートワーク。例えば、GitHubという会社は全員リモートなんですね。だから、どこが主従かというのはないし、リモートを前提にしたコミュニケーションが成り立つ。

もう一つは仮想現実というか、さっきの「アバター」的な話でいうと、リアルに会ったほうが、面倒くさいことってたくさんあるわけですよ。だから、自分の化身がネット上にいて、その人たち同士で話をしますと。その結果、ちゃんと自分が、リアルの世界に持って帰って、何かやりますみたいな、そういったコミュニケーションもあるんじゃないかなと思うんですね。

夏野:さっきの映画『サロゲート』とか『攻殻機動隊』がそうかな。その世界ではものすごい美人なんだけど、男かもしれない。実は80歳かもしれない。そのほうが見た目に惑わされず、意見とか人間の本質的なメッセージをちゃんと受け取れるということですよね。

夏野:冒頭のリアルタイムコミュニケーションの話ですが、実はW3Cでの重要な会議って、全部IRCを使っているんですね。で、発言の要旨を打つ人がいるんですよ。国際的な会議なので、ネイティブなみに英語ができないけど、技術的にはすごい優秀だったりする人もいる。ちゃんと文字化してくれると、話についていけなかったときも、議事録を見て、ちょっと遅れてついてきてくれる。これ、リアルタイムコミュニケーションのすごくいい事例だなと思っています。GoogleがやっているようなWebで自動翻訳されるようになったら、相当、国際会議は楽になるなと。あれ、いいカルチャーですね。

白石:Google I/Oでもやってましたね。僕も参加したとき、それに感銘を受けました。

及川:アメリカはそういったキャプチャー的なものが進んでいて、ハンディキャップがある方に、平等な機会を与えるという考えにもつながっているんです。私もTPACとかでW3Cの会議に行ったことあるんですけど、すごい助かりますね。いろんな人がしゃべっていると、追いつかないとこがあるんですが、ログ見ればちゃんと確認できる。

そのときに、もし話すのがちょっと厳しかったら、そこのIRC上で「さっきのところ、実はこうだったよ。今確認したよ」って書いとくだけで、きちっと皆さん読んでくれるし。ログにも残るし、いろんな国から、いろんな言語がネイティブの人が入るときには、非常にいい仕組じゃないかなと思いますね。

夏野:だからこういうのは、日本こそ、僕は頑張ってほしいなと思っていて。日本人が、一番損しているわけじゃないですか、コミュニケーションってさ。これを技術で解決しようというのを、あんまり困っていない、アメリカの会社がやるより、日本の会社がもっと真剣にやったほうがいいんじゃないかと思うんですけど。

白石:ぜひ、やっていただきたいですね!

仮想現実/拡張現実と、WebRTCの未来

白石:次は仮想現実、拡張現実みたいなお話をお聞きしたいんですけど。

夏野:さっきの話って、拡張現実に近いですよ。拡張現実って、その上にアニメキャラを出して何か言わせることだけじゃなくて、リアルに会話しているところに、それが全部テキスト化されるなんていったら、それは拡張現実じゃないですか。

だから、あんまりSFチックなファンタジックな方向に考えないで、もうちょっとリアリスティックに考えると、拡張現実はもっと現実を拡張していくわけなので、もっとあっていいと思うね。ARが何に使えるかというのは、もう誰もまともなソリューション出せないままきてしまったから。でも、よく考えると、ARを使うとここに字幕が出る。これは十分面白いよね。

白石:たしかに役に立ちますね。

及川:さっきのSlackは単純なチャットシステムであるのと同時に、いろんなかたちでbotが使えるわけですよね。そのbotに話しかけることによって、継続的インテグレーションして始めるのも面白い。私たちの会社だと、ランチ行きたいって言ったら、ランチのおすすめ教えてくれたりだとか、その時間になると「今日の掃除当番、誰がほうきです、掃除してください」って言ってくれる。

テキストベースでもいろんなことができるし、今、夏野さんがおっしゃったみたいに、ARやVRbotみたいなものが、WebRTCのクラウドとして、いろんな振る舞いしていったりすることが、もう拡張現実の世界になってくるんだと思うんですよね。

白石:なるほど。

及川:実はbotだらけでもいいんじゃないかなと思うことがたくさんあって。人間に話すと面倒くさいことなどは、とっても頭のいいbot、もしくは、人工無脳的にちょっとばかなbotとコミュニケーションするほうが、いろいろ円滑に進めるところがある気がします。テキストだけでなく、RTCの世界でも出てきたりするといいんじゃないかなと思いますね。

次のデバイスとして期待しているものは?

白石:会場からの質問も受け付けたいと思います。

Q:次のデバイスとして期待しているものってありますか?

夏野:どれぐらいのレンジで考えるかですが、僕はこの30年以内に全部デバイスはなくなると思っています。だから、完全に電脳。電脳の中でWebを浮かべれば、Webが浮かぶし、情報は全部で取れるし、送ろうと思えばすぐ送れることになる。ウェアラブルとかVRモノも出ているけど、期待するのはノーデバイス。あとは、『攻殻機動隊』を読んでください。

及川:逆張りで言わせていただくと、紙ですね(笑)。要は、やっぱりアナログって強いんですよ。だから、ペンでもって自分で何かを書いてとかっていうのもあるし、目にも優しいですので。今の紙、そのものじゃないかもしれないけれども、こういった紙をメタファーにしたようなデバイスは、インターネットにおいて、ずっと取り残されている。確か、ペーパーレスというキーワードとともに、そのIT化、コンピュータ化の中で、過去のデバイスにされているんだけれども、実は再発明されるべきものじゃないかな。紙みたいなデバイスにRTCが入ってきたら、何かできるのかと期待します。

WebRTCに期待したいことは?

白石:最後にWebRTCに絡めた何か一言づつお願いします。

夏野:さんざん出してきましたが『攻殻機動隊』です。つまりね、日本のエンジニアはものすごい短視眼的になりがちなんですよ。だけどやっぱり20年先、10年先に何がありそうか、あってほしいか。ありそうかを予測するのは面倒くさいけれど、あってほしいかと言う文脈から戻ってWebRTCを考えることが、そのデバイスをどう考えるとかという発想前にしてほしいんですよね。そうしないと、何か突き抜けられないし、つまらないね。あとは『攻殻機動隊』を読んでください。

及川:僕は最近、botがすごい好きなんですね。だから、RTCでbot、しかも今誰かがサポートしてくれるんじゃなくて、僕の代わりに全部やってくれると。だから、朝早くビデオ会議とかだと面倒くさいので、もう僕の振る舞いを覚えてくれたら勝手に動いてくれるような、そういった世界観が来るといいなと思います。

白石:皆さん、楽しんでいただけましたでしょうか。楽しんでいただけた方は、大きな拍手で終わりたいと思います。どうもありがとうございました。(盛大な拍手!)

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