エキスパートインタビュー第三弾は、あんどうやすしさん。ミクシィのエンジニアとして働く傍ら、Google Developers Expertとして「開発者のためのChromeガイドブック」を執筆するなど、精力的に活動されています。世界的に有名な物理エンジンライブラリ「Box2D.jsの作者」という面もさることながら、「Google Waveの人」や「おっぱいエンジニア」など「おもしろい感じの人」としても有名なあんどうさんに、経歴や関心のあることなどをいろいろと伺ってみました。
業務系エンジニアから、30歳で留学
── 「やっちゃった感すごかったですよ」
──あんどうさんとは、意外と長い付き合いですが、そのご経歴とかはあまり伺ったことがありませんでした。どんな開発者人生を歩んでこられたんでしょうか?
以前はJavaを使った業務系のエンジニアでした。いわゆる「デスマーチ」も経験するような、「普通」の業務系エンジニアでしたよ。
──あんどうさん、Javaもやってらしたんですね。RubyやJavaScriptなどをやっているイメージがとても強いので、意外です。
はい、Javaは仕事で7~8年やっていました。今もAndroid周りの開発をやっているので、Javaを結構触っていたりします。型がない言語のほうが、書くのは楽しいですけどね。
で、30歳のころに心機一転、イギリスに1年間留学して、コンピューターサイエンスを学ぶことにしました。 ただ、英語が苦手な状態で行ってしまったのが、ちょっとまずかった。行ってから8カ月くらい、ほとんど誰とも話さなかったりしました。
──8カ月!それは…つらかったんじゃないですか? 僕だったら寂しくて死んでしまいそうです。
そこは実は、全然つらくなかったんです。私は、人と喋らないのは苦にならないタイプみたいで。
ただ、「やっちゃった」感はすごかったですけどね(笑)。
留学前にTOEFLのトレーニングはしていったので、リスニング力は向上していました。 なので授業の内容は何となく分かるんですが、試験となるとそうはいかない。
おかげで学校も一度追い出されそうになったりして……。 学校追い出されたら、残りの時間はヨーロッパ旅行して帰ろうとか、本気で計画したものです。 結局は教授に頼み込んで、なんとかなったのですが。
私のイギリス留学は、そもそもの初めから送った荷物が2カ月くらい届かなかったりと、なかなかにハードでした。
──あんどうさん、英語が結構得意なのかと思っていました。イギリスに行ったという話は聞いたことがあったのですが、英語が得意だから行けたのかな、と思っていました。そうじゃなかったんですね。
そうです。それになんか、向こうに行きさえすれば必要に迫られて英語がものすごく上達するようなイメージってあるじゃないですか。 全然そんなことはないですよ!今後、留学したいと考えている人には、英語をきちんと学んでから行くことをオススメします。 たださすがに、耳が英語に慣れたおかげで、その後英語のコミュニケーションにはそれほど苦労しなくはなりました。
留学から戻ったあとはいくつかの転職を経験して、今はミクシィでプラットフォームを開発する部署に所属しています。
「あの」伝説的エンジニアがHTML5を始めるきっかけを作った!「Webが進化したのは私のおかげ」
──あんどうさんは、物理エンジンライブラリであるBox2D.jsの開発でも有名ですね。世界中で使われているライブラリです。
はい、ActionScript3版のBox2Dライブラリを、JavaScriptに移植したものですね。今では、box2dwebなどの後継も出てきていますが、JavaScript製物理エンジンとしては結構知られているんじゃないかと思います。
Box2D.jsが完成した瞬間、「これはすごいぞ」と考えて、Ajaxianとかにも投稿したんです。 でも、全然取り上げてもらえなくて。その後1年後くらいにとある記事で取り上げられて、それでやっとライブラリが知られるようになりました。はじめの頃は、その記事の執筆者がBox2D.jsの作者だという勘違いをされていて、納得いかないと感じたこともありましたけどね(笑)。
──以前、Mr.doob(※)も使っていたそうですね。
そうなんですよ! Mr.doobは、Flashのクリエイターとしても有名な人でしたが、「Box2D.jsがあったから、HTML5を始めた」と言われたときは嬉しかったです。 Mr.doobはその後Three.jsを作り、Webの進化に多大なる貢献をしたわけです。そのきっかけを作ったのは私。だから、Webの進化に多大なる貢献をしたのは私である、と言ってもいいんじゃないでしょうか(笑)
※Mr.doob…Three.jsの作者として有名なクリエイター。先進的なデモギャラリーとして長い歴史を誇るChrome Experimentsにも、多数の作品を投稿している。
「技術の無駄遣い、大好きです」
──あんどうさんは、その高い技術力を使って面白いものを作っている人だ、という印象があります。ブログ上で、いろいろとトライしていらっしゃいますよね。例えば、「おっぱいエンジニア」としても有名ですね。
そうですね。自分で言うのもなんですが、あの(おっぱいの)動きは素晴らしいと思います。だいぶこだわりましたからね! ですが実は、あの動きを作るのにはそれほど時間はかかっていません。動くのを確認するまでは大体1日か2日くらいですね。
──以前、WebGLとWebRTC、あと顔認識のライブラリ(Face.js)を組み合わせたデモを作っていたのを覚えています。ああいった、先端技術を使ったおもしろ系のデモとかを作るのがあんどうさんの真骨頂というか。
そうですね。新しい技術が出たら、それを使ってとにかく面白いものを作りたい。技術の無駄遣い、大好きなんですよ。ジャストワンアイデアで終わるようなものを作りたい。
──なるほど、根っからのエンターテイナー気質というか……おみそれしました。では、最後の質問です。現在注目している技術や、今後期待している技術とかを教えて頂けますか?今後HTML5 Experts.jpに書いていただけるという期待も込めて、お聞きします!
個人的には、3Dをもっとちゃんとやりたい。あと、物理エンジンの世界をもっと突っ込んで極めていきたい。Box2D.jsは、剛体の物理シミュレーションだったのですが、粉体や流体の物理シミュレーションエンジンなども作ってみたいですね。
3Dや物理エンジン、人工生命などといった、「世界の枠組み」を作るようなのが好きなんです。そういう世界の上では、細かい作りこみをしなくとも、少し手をかけるだけで面白いものが作れる。そうして、人をびっくりさせるようなものをどんどん作っていきたいと思っています。