モバイル対応にこそ、Webの真の課題が隠されている──及川卓也氏「HTML5 Conference 2013基調講演」

村井純氏に続いて登壇したのは、グーグルのシニアエンジニアリングマネージャー・及川卓也氏。 HTML5をめぐる今年1年間の変化について、「HTML5はもはやバズワードではない。エンジニアに会ったり、さまざまなカンファレンスに参加すると、実際に使われ始めてきていることを実感する」と語った。

及川卓也氏

最新Web技術の3つのキーワード

及川氏は、Chromeの新しいレンダリングエンジン「Blink」のコントリビュータが参加するカンファレンスで感じた、最新Web技術のキーワードを3つ紹介する。

1つ目は、Web MIDI/Web Audio。 「音楽愛好家にはおなじみのMIDI。往年のシンセ少年にはワクワクする話だと思うが、Web上で簡単に音を組み合わせることができるようになってきている」

2つ目が、WebRTCだ。 「リアルタイムなコミュニケーションも、Webがあれば(プラグインなしで)できるようになってきた。カメラやマイクの制御、呼制御といったこともできるようになってきている」

そして3つ目が、Web ComponentsとDOM Promisesだ。Web Componentsについては、「昨年はまだShadow DOMぐらいしか実装がなかったのが、今年はほかのものも揃うようになってきた。また、Google I/Oで発表したPolymerというフレームワークも出てきて簡単に使えるようになってきている」と紹介した。

及川卓也氏

モバイルにおけるUI/UXの重要性と課題

こうした機能追加と同時に課題として及川氏が挙げるのは、UI/UXの重要性だ。 「単に機能があるかどうかだけでなく、私たちはそれがユーザーにとって使いやすいものかどうかを考えなくてはいけない。例えばタブレットのタッチの操作性だったり、セキュリティだったり。セキュリティは使い勝手とのトレードオフだから、危険だと知らせるときの表示が邪魔だと思われないようにどうするかを考えないと多くの人は使えない」

UI/UXデザインは、及川氏がその後に触れたエンジニアにとっての開発生産性とともに、依然として重要な課題だ。 及川氏は最後にインターネットのモバイル活用に触れ、HTML5開発者に求められる課題を提示した。 「モバイルでインターネットを活用するのは当たり前になってきているが、メールなど、いくつかの用途では依然としてPCからのアクセスが多い。これは何を示しているのかというと、まだ解決すべき領域があるということだ」

横型の画面にキーボードとマウスという環境はいわばPC特有のもの。モバイル端末では、画面の縦横がころころ変わるし、入力もボイスだったりタッチだったりする。 モバイルでの利用シーンをたえず想定することは、「Webという技術がもっとユニバーサルなテクノロジーになるためには何が必要なのか、テクノロジーデザインを考えるきっかけになる」というのだ。 「Webのモバイル対応には、Webがますます社会に定着する技術になるか、という真の問題や課題が隠されている」という指摘は、各セッションでの議論のまさに基調になるものだった。

(レポート:広重隆樹/撮影:馬場美由紀)

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