「WebRTC Conference and Expo 2013 Atlanta」のレポート。日本ではまだまだ様子見の雰囲気が強いWebRTCですが、特にアメリカでは様々なサービスや取り組みが始まっています。日本からもどんどんWebRTCを活用したアクティビティを発信して行きたいですね!海外動向が気になる人は要チェック!
世界中で注目されるWebRTC
HTML5 Experts.jp編集部による執筆記事第一弾とりなす。2013年6月25日から27日の3日間、アメリカのアトランタにて「WebRTC Conference and Expo 2013 Atlanta」が開催されました。カンファレンスでは、Developer、Business、Enterprise、Telecom、Mobileそれぞれの分野についてのパネルセッションやワークショップなど計39セッションに加え、参加企業50社以上のWebRTCを活用したサービスの展示紹介、33のデモンストレーションが行われました。日本でも最近何かと話題のWebRTCですが、世界に目を向けるとスタートアップからエンタープライズまで様々な企業が、その新しい可能性に懸けている事が分かります。
WebRTCを活用したサービス事例19
カンファレンスに参加した海外注目企業が提供する「WebRTC」に関するサービス19本をターゲット別に一挙紹介します!
デベロッパー向け
WebRTCを用いたサービスを簡単に開発できるように、クラウドサービスとクライアント向けのライブラリやSDKを公開している企業を集めました。開発者向けに無料提供しているサービスもありますので、興味がある方は利用してみては如何でしょうか。
Crocodile Talk
WebRTCを利用したサービスを開発するためのSDK(Crocodile SDK)とバックボーンネットワーク(CROCODILE NETWORK)を提供しています。WebRTCとWebRTC、WebRTCとSIP、WebRTCと携帯電話などの通話を可能にします。その他、メッセージのやり取りやファイル共有、プレゼンス確認等の機能もあります。
Pubnub
WebRTCを用いたサービスを開発するためのSDKを公開しています。datachannelを活用したマウスの動きをシンクロさせるデモなどをこちらで公開しています。
jsSIP / versatica.com
js用のSIPライブラリです。Asterisk 11以上などと組み合わせることでWebベースのSIPフォンを開発することができます。
デモサイトはこちらをご覧下さい。
AsteriskはDigium社が提供しているSIPサーバソフトウェアです。AsteriskのWebRTC対応に関してはこちらのインタビュー記事が参考になります。
APIDAZE LABS
Webと電話で利用可能なカンファレンスシステムを構築するためのクラウド環境とクライアント用APIを提供しています。サービスイメージはこちらに分かりやすくまとまっています。デモサイト「WebR.TC」をこちらで公開しています。
Priologic
EasyRTCというWebRTC用のサーバソフトウェア、クライアントAPIをコンシューマー向けに提供しています。合わせて、サーバ側でのログ取得、モニタリング、TURNサービスなどの機能拡張を行った EasyRTC Enterprise platformというPaaSも提供しています。EasyRTCについてはGithubを、EasyRTC Entepriseについてはこちらをご覧下さい。
EasyRTC Enterprise platformを利用したデモサイトがこちらで公開されています。無料でセキュアにVideoチャットができるサービスで、chrome, firefox, android, iOSから利用可能です。
tokbox
Face-to-Faceのコミュニケーションを実現するOpenTokというプラットフォームと開発者向けのライブラリを提供しています。WebRTCを活用したOpenTokのデモをこちらでご覧頂けます。
weemo
WebRTCを活用したVideo Chat、PC画面共有、ファイル共有機能をもつCloudサービスをと開発者向けのライブラリやSDKを提供しています。WebRTC対応のWebブラウザやAndroidアプリ、iOSアプリから利用する事ができます。サービスの詳細はこちらをご覧下さい。
bistri
WebRTCを利用したフリーのVideoチャットサービスを提供しています。開発者向けにはこちらで有料のAPIも公開しています。
vline
WebRTCのアプリケーションを開発するためのプラットフォームとクライアント向けのAPIを提供しています。HD画質のビデオチャットを簡単に構築することができます。あわせて、STUNやTURNなども提供されているため、簡単に開発をスタートできます。
ビジネス向け
WebRTCを活用したサービスを提供している企業を集めました。WebRTCを活用したサービスの一例としてご覧下さい。
Requestec
ビデオ会議システム、ファイル共有サービス等を提供しています。WebRTCの技術を活用したいろいろなデモサービスをこちらで公開しています。また、同社が提供するVoixioというサービスのグループビデオチャットのデモは以下の通りです。
voixioデモサイト:http://voixio.com/roomw/html5expertsjp
※URL末尾の「html5expertsjp」はルームIDです
Teledini
Click to Chat、Call、Video Chatなどのサービスを提供しています。オフィシャルブログによれば、Click2CallサービスをChromeから利用した場合、WebRTCを利用する実装になっているようです。
Thrupoint
Web Soft Phoneなどのサービスを提供しています。自社サービスのWebRTC対応についてこちらに記載があります。
Solabrate
技術者、専門家同士を結びつけるためのSNSを提供しています。WebRTCを用いたリアルタイムコミュニケーション(ビデオチャットなど)が特徴です。
エンタープライズ向け
エンタープライズ系のシステムや通信キャリアをターゲットに、WebRTCとSIPをつなぐためのゲートウェイやクラウドサービスを開発提供する企業を集めました。WebRTCというオープンな技術を活用しエンタープライズ向けのビジネスを展開する、という点で参考になるのではと考えています。
Voice Elements
WebRTCに対応したSession Border Controller(SBC)を提供しています。SIPとWebRTCを相互接続するだけでなく、SRTPとRTPの変換、G.711とG.729のトランスコード機能も提供し、プレゼンスとセキュリティを担保しています。SBCについての詳細はこちらをご覧下さい。
Ingate
エンタープライズ向けのSession Border Controller(E-SBC)を提供しています。また、Q-TURNという独自のTURNサービスも開発しています。TURNは本来NAT等の制約を回避するためにメディアを中継する技術ですが、Q-TURNでは、NAT越えのための技術はもとより、帯域制御やVP8とH.264のコーデックの変換などを提供し、TURN自体の付加価値向上を図っています。
Ingateの技術情報に関してはこちらの記事が参考になります。
Temasys
WEBRTC SkyWayというクラウドサービスを提供しています。シンガポールに拠点を置く企業で、今回ご紹介する企業の中で唯一アジア圏の企業となります。WebRTC Conference and Expo 2013にてデモが紹介されています。デモの様子はこちらの動画をご覧下さい。
Dialogic
PowerMedia XMSというサーバソフトウェアを提供しています。WebRTCとSIP Deviceで通話する際のシグナリングやコーデックのトランスコード(VP8からH.264)、メディアのレコーディング、ミキシング等を行うサーバを簡単に構築する事ができます。PowerMedia XMSを利用したサービスの概要についてはこちらをご覧下さい。
MAVENIR SYSTEMS
ソフトウェアベースのネットワークソリューションを提供する企業です。こちらでWebRTCに取り組む旨が発表されていますが、まだ具体的なプロダクトは発表されていないようです。
Sansay
WebRTCに対応したSession Border Controller(SBC)を提供しています。Web開発者向けのプログラム(プレビュー版)を提供しており、エンタープライズ向け、キャリアグレード向けの高品質なWebRTCアプリケーションを開発することができます。
WebRTCの海外動向と考察
WebRTCはW3CとIETFが標準化を進めるオープンな技術です。そして、両団体が標準化に関わる事でも分かる通り、取り扱うには、Webアプリケーションの開発技術からネットワークレイヤの技術まで幅広い知識や経験が必要となり、ハードルが高い技術と言わざるを得ません。
今回紹介した事例で一番多いデベロッパー向けに関しては、その開発ハードルをいかに下げるかという観点で、各社がクラウドサービスとセットでクライアント向けのライブラリ等を提供しています。まだ、標準化途中である事も考慮すると、この領域への参入企業は今後も増えると予想されます。
今回一番数が少ないビジネス向けについては、標準化途中である事と、Webブラウザ・モバイルデバイス等への実装状況など不確定要素が多い事もあり、参入企業はすぐには増えてこないかもしれません。また、世界的に見てもビジネス展開のバリエーション(Webカンファレンスやファイル共有、スクリーンシェア等)がまだまだ少ないと感じるため、WebRTCを活用した新しいビジネスアイディアの創出に期待したいところです。
エンタープライズ向けに関しては、WebRTCとSIP、PSTNとの連携やSTUN、TURNなどサーバサイドの周辺技術をうまく活用した事例が目立ちます。オープンな技術であるWebRTCですが、ネットワーク機器ベンダや通信キャリアなど、参入のチャンスは十分にあると感じました。
おわりに
HTML5 Experts.jpでは、今後もWebRTCに関して情報をウォッチしていきたいと考えています。今回紹介した「WebRTC Conference and Expo 2013」に関しては今年11月にも開催が決まっています。詳細は以下のサイトをご覧下さい。
今後のWebRTCの盛り上がりに期待しつつ、記事を締めくくりたいと思います。最後までお読み頂き、ありがとうございました。