2月5日、6日にかけて「WebRTC」をテーマとした、日本初のカンファレンスであるWebRTC Conference Japanで開催されました。 本記事では、その中の基調講演の1つである、「The WebRTC Continuum」の内容について紹介します。プレゼンターはOracleのダグラス・タイト氏です。
▲Oracleの通信マーケティング担当ディレクターであり、通信業界のビジネスと技術のエキスパート Douglas Tait(ダグラス・タイト)氏
WebRTCの第一の波は終わった。次の波に備えよう
WebRTCが本格的に議論され始めたのは、ここ3年ほどのことです。Oracleも、WebRTCが議論され始めた当初から、通信分野の大手企業と共にWebRTCの進化に尽力し、エンタープライズ分野における可能性を探ってきました。WebRTCの「第一の波」は終わっていると考えてもいいでしょう。2013年から2014年にかけて、WebRTCの導入はかなり進みました。
そして2015年、WebRTCには第二の波が来ます。まずは市場のトレンドから探っていきます。2015年、WebRTCのデプロイは3倍になると予測されています。VoLTE(Voice over LTE: 超高速通信サービス(LTE)による音声通話サービス)は50%以上増加するでしょう。コールセンターは、プロプライエタリなソリューションからWebテクノロジーへと移行します。ユニファイド・コミュニケーションは、中央集権型からWeb上でより分散されたものになっていくと考えられます。
このセッションでは、WebRTCが次に起こすであろう「波」について語ります。波という話題について語るにあたり、以降は私が大好きなサーフィンに例えてお話することをお許し下さい。サーフィンに必要な物は3つ。サーフボードと波、そしてもちろん海です。
このセッションで言えば、サーフボードはWebRTCやWebRTCを利用できるデバイスです。波は、それらのデバイスを相互に接続するコネクション。そして海はネットワークそのものです。これら全ての分野においてたくさんの新規参入があるでしょう。しかし、これははまだ始まりに過ぎないのです。
キャズムを超えろ
ここで、ジェフリー・ムーアのキャズム理論に照らし合わせてみましょう。WebRTCは現在、アーリーアダプターの段階にあります。
この段階には「キャズム」という落とし穴があることをムーアは発見したわけですが、WebRTCも、現在抱える多くの問題を解決しなくては、キャズムから抜け出すことは困難です。
問題は大きく分けて3つあります。
一つはモビリティです。
認証や認可の仕組みを、WebRTCはそれ自体では持っていません。このことは、より多くのユーザ名/パスワードのペアを必要とするようになるかもしれません。また、DoS攻撃に対する対処についても、現在のWebRTCは備えていません。
次に信頼できるネットワークソリューション。
私たちは、携帯電話が世の中に普及していく段階で、携帯ネットワークの信頼性について数多くのことを学びました。通信圏外やローミングなどの知見です。また、ラップトップPCのほうが、携帯電話よりもさらに繋がりにくい状況です。
ブラウザのリロードやネットワークの問題でセッションが失われてしまったり、多くのセッションやコネクションからなる大きなネットワークのサポートが欠如しています。
最後に相互運用性です。
相互運用性というのはとても広い言葉です。例えばネットワーク間の相互運用性、ブラウザやデバイス間の相互運用性、メディアコーデックの相互運用性などの全てを含みます。
特にコーデックは、現在のWebRTCでは2つの動画コーデック(VP8/H.264)、2つの音声コーデック(Opus/G.711)が標準でサポートされる方向に向かっていますが、実際のネットワーク上ではもっと数多くのコーデックが利用されています。
こうしたキャズムを越えようと、様々な企業がチャレンジをしています。アメリカン・エキスプレスは、プレミアム会員向けに、WebRTCを使用したサポートサービスを提供しています。Amazonのメイデイボタンは、助けが必要なときにボタンを押すだけでオペレーターに接続され、オペレーターと共に画面の操作を行うことができます。Vonageは、インターネットを利用した電話サービスですが、固定電話や携帯電話への通話も格安で行うことが可能です。
WebRTCの最も素晴らしい点は、場所やデバイスを選ばないということです。現在はそうした世界になっていないから、電話をして2時間待つようなハメになるのです。コミュニケーションの流れで複雑だったところをシンプルにできる、それがWebRTCの最も大きな利点です。
来年はおそらく、こんなキャズムの話なんてしてないでしょう。なぜなら、来年にはこうしたキャズムは超えているからです。
新たな要件
では、この先WebRTCに必要とされるものは何でしょうか? 先ほどのサーフボードの例えに則り、デバイス、コネクション、ネットワークという3つの視点から見てみましょう。
まずデバイスですが、iOSネイティブや、AndroidネイティブのWebRTCインターフェースが必要とされています。WebRTCが、ノンブラウザの世界でも利用されるようになります。
コネクションにおいては、様々なメディアとのインタラクションをシームレスに統合したい、というニーズが生じています。例えばこの画面は、(この次に基調講演に登壇する)チャド・ハートさんのスライドから拝借したものですが、ブラウザやモバイルデバイス、SIPクライアントなどの様々なデバイスとのインタラクションが一画面に統合されています。また、DataChannelはIoTやM2Mの世界でも使われていくことになるでしょう。
ネットワークにおいては、様々な要件が生じています。例えば認証、RESTやJavaScriptを考慮した標準化されたインターフェース、より高速なNATトラバーサル、あらゆるものの仮想化などです。
WebRTCの発展を阻害するもの、それは、実は…
私はサーフィンが大好きで、子どもたちもよく連れ出します。そこで子どもたちに「サーフィンをする上で、一番怖いものは何?」と聞くと、「サメ」なんて答えが返ってくるのですが、実際にはそうではありません。
サーフィンをしている際に一番危険なのは、別のサーファーなんですよね。これと同じく、WebRTCの普及にとって問題なのは、実は外部の要因ではなくて、実は他の様々なベンダーだったりするのです。
例えばORTC。良いコンセプトなのはわかります。でも待てません!
コーデック。議論したい気持ちはわかりますが、先に進まなければ!
Internet Explorer。マイクロソフトのことを待っているわけにはいきません!
標準化団体。標準はどちらにせよ出てきますし、その中には良いものもあれば悪いものもあるでしょう。
私たちはもう、待っているわけにはいかないのです!
まとめ
では、このセッションのまとめに入りましょう。このセッションでは、WebRTCに来ている波をサーフィンに例え、3つに分けてお話してきました。
現在、WebRTCはキャズムを迎えようとしています。
キャズムを超えるために必要とされるのはモビリティ、信頼性、相互運用性です。
そしてその先に来る波が必要とするのは、モバイルデバイス、接続性、ネットワークです。
こうしてキャズムを超え、WebRTCが普及したそのとき、デバイスにも、場所にも、何にも縛られずにリアルタイムに人々がコミュニケーションする世界が開けてきます。それが私たちに広がる「未来」なのです。