11月30日に都内で開催された「HTML5 Conference2013」。多くの参加者を集めたオープニングセッションの冒頭で招待講演を行った日本のインターネットの父、慶應大学教授の村井純氏の基調講演をレポートする。
自民党のIT戦略本部で話してきたこと
初めに村井氏は最近、自民党のIT戦略本部で話してきたことを紹介した。
「先日、政治家の皆さんにあらためてインターネット、Webの重要性を話してきました。すべての分野で、既得権のあるところで、インターネットは貢献するんだと。世の中変えるのはインターネットだ。そこで何より重要なのは一人ひとりのチカラなんだ、と」
一人ひとりのパワーが世界を変えていくと、90年代からしきりに語ってきた村井氏の、その情熱はいまなお衰えない。
当然、このような世界が生まれたのは、村井氏ら研究者たちの尽力があったからこそ。村井氏はインターネットが商用化され、新しいビジネスが生まれてきた2000年前後のことを振り返る。
「その頃は新しいネットビジネスが全盛でだったけれど、技術的なこと、プロトコルなどに関心を持つ人はそんなにいなかった。だから、2000年はアメリカと日本ですべて決めてたんですね。IPv6のプロトコルスタックとかはうちの研究室でやってましたから」
インターネットの変化は常に前倒しで起こる
必ずしもマーケット主導に任せれば、技術は黙っていても進化するということではない。その頃からすでに村井氏は、中国13億人の人口が、すべてインターネットに接続される時代が来ることを想定していた。
「IPv6は何のために作るのかと言ったときに、誰もがインターネットを使うようになったらどうなるかを考えたわけです。こうして、すでに中国でもインターネット利用者は40%を越えた。世界の国々でまだ利用率が30~40%のところが、日本のように80%になるのは時間の問題。世界中の人がインターネットを使うことを前提にものを考えないといけない」
そうした認識が、これからインターネット上で何らかの開発を進めるエンジニアにとって、大前提にならなければならないというのだ。 インターネットの変化の方向性について、村井氏は「グローバル、ローカル、ソーシャル、パーソナル、モバイル、双方向そしてビッグデータ」の6つのポイントを挙げる。そして重要なことは、こうした変化は必ず自分たちの予想以上に早まる。つまり変化は前倒しで起こる、ということだ。
その一例が3Dプリンタだ。スライドに示されたのは、骨折時に使うギブス。
「ギブスのデータをネットワーク越しに3Dプリンタで印刷すれば、プロの医者が作るよりはるかにいいものができる。3Dプリンタなんてそのアイデアは大昔からあるんだけど、電子部品が安価になり、インターネットが広まると、エクスポネンシャル(指数的に)に普及するようになります」
出版、医療、物流などの各分野で起きている変化の波を、村井氏は口早に示す。RFIDネットワークと新しいセンシング技術のフィールド研究グループ「Auto-IDラボ」(日本の拠点は慶応大SFCにある)の研究にも触れ、「例えばプリンタのインクの中にRFIDを入れて、シリアル番号なんかを管理できるようになりました。ここまで来るのに10年かかりましたが、物流の管理に大きな変化をもたらすことは間違いない」と紹介した。
15年、20年先を考え、7年後の目標を持とう
村井氏が最後に強調したのは、「7年後の目標を持つこと」。インターネットの変化は常に前倒しで起こるという“法則”からすれば、15年ぐらい先の話だと思っていたものが、その半分の7年ぐらいで実現するかもしれないということだ。
「だいたい15年、20年先に何がやりたいかをイメージしておくと、それが7年先には出てきます。そのつもりで、7年後を考えよう。ちょうど、7年後の2020年は東京オリンピックがやってくるから、みなさん忘れるはずはない。こういう目標設定をすると必ずできると思いますので、ぜひ今日のHTMLカンファレンスで、2020年目標で私は何ができるか、考えてほしいと思います。私もまだ参加しますので、よろしくお願いします」
と、講演を締めくくった。
(レポート:広重隆樹/撮影:馬場美由紀)
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