こんにちは、HTML5 Experts.jp編集部の馬場美由紀です。HTML5 Experts.jp「Webの未来を語ろう 2017」の第三弾は、Webの未来を考えるコンテンツ編です。
毎回豪華なゲストをお招きして、聴講者を募り、白石編集長と一緒にお話を聞くイベント形式でお届けしてきたこのシリーズ。「メディア編」「コミュニティ編」に続く、コンテンツ編は大人気ライターのヨッピーさん、「デイリーポータルZ」編集長の林雄司さんという、超豪華なゲストにお越しいただきました!
ゲスト紹介
林 雄司さん
1971年東京生まれ。ニフティ株式会社勤務。デイリーポータルZウェブマスター。主にインターネットと新宿区で活動。 編著書は「死ぬかと思った」(アスペクト)など。イカの沖漬けが世界一うまい食べものだと思ってる。個人サイトは「webやぎの目」
ヨッピーさん
「オモコロ」「トゥギャッチ!」など、体を張った実験記事を執筆する人気ライター。関西学院大学を卒業後、商社に就職。退職後はさまざまなWebメディアで記事を執筆。メディア運営のアドバイザーやWebライター塾の講師としても活躍中。
テーマは、コンテンツを作る・コンテンツを伝える・コンテンツで稼ぐ
白石:今回は「コンテンツを作るプロ中のプロ」であるお二人にコンテンツ作りのこだわりから、現在のWebをどう見ているか、未来はどうなると思うかなど、ちょっとシリアスな話題なんかも聞いてみたいと思っています。お二人をしゃぶりつくすために、こんな図を用意してきました。
これをもとに「コンテンツを作る」「コンテンツを伝える」「コンテンツで稼ぐ」といったテーマについて語っていただきます。
「良いコンテンツ」ってなんですか?
白石:実は事前にヨッピーさんから林さんに対して「良いコンテンツってなんですか?」、林さんからヨッピーさんに「どれくらい分業しているか?」という質問をいただいています。
ヨッピー:この「良いコンテンツってなんですか?」って質問、デイリーポータルZ(※以下、デイリーポータル)を見てると林さんはWEB界隈の中でもちょっと毛色が違う答えを出す気がしていて。例えばBuzzFeedなんかだと、彼らが作ってるコンテンツを見る限り、僕が考えてることとそんなに違わない気がするんですね。彼らは「お前と一緒にすんな!」って言うかもしれないですけど……。
だけど、林さんは違う考えをお持ちじゃないかって思ってるんですよね。
林:僕、事前に質問もらっておきながら、あんまり考えてない(笑)。
ヨッピー:自分の話でいうと、僕ってもろにウケを狙いにいくタイプなんですよ。それは林さんから見たらいやらしいというか、林さんのポリシーとは全然違うんじゃないかなって思うんですけど……。
林:うーん、なんかね。「良い」っていうと正しいみたいじゃないですか。正しくなっちゃうと困るんですよ。単純に面白くて、笑えるコンテンツがいいと思います。
ヨッピー:そういえば、こないだWEBメディア系のえらい人たちも含めて林さんと飲んだんですね。僕やそういう人たちはわりと血気盛んなタイプなんで、「悪いやつらをやっつけろー!」「ちゃんとやろうぜー!」みたいな感じなんです。でも、林さんは「誰が悪いとか正しいとか、僕らが判断するのは良くないんじゃないか」って言うんです。それで結構みんなハッとさせられたと言うか。
林:僕らが「これが良い」って認める立場になるのは恐ろしいんです。フランス革命後の恐怖政治みたいに、結局良くないことになる。インターネットなんてそれぞれ自由に任せるべきで、何が良いか悪いかなんて決められるものじゃないと思うんですよね。
「面白い」というのは、読んだあとに知識が得られて世界が変わるとか、ものの見え方が変わるのがいい。例えばかつらの見分け方を読んだら、世の中の見る目がかつらの人とかつらじゃない人に分かれるじゃないですか。もしくは、猫が面白い動きをするとか見てて楽しいコンテンツがいいです。
ヨッピー:デイリーポータルの中で素晴らしいと思ってるのは、大山さんが書いてた「マンションポエムが面白い」って記事。あの記事が出るまでは、マンションポエムなんてカテゴリは、今まで世の中に存在しなかったわけじゃないですか。今までまったく気にしていなかったのに、これは面白いとなると、電車に乗ったらついついマンションポエムがないか探しちゃうんですよね。
林:あっ、それそれ!さっきのかつらの例はあんまりよくなかった。まさにそのマンションポエムですよ、マンションポエム。これを定義すると、世界が変わるという代表例。まあ、そればっかりもできないので、お茶をにごしている記事も多いですけどね(笑)。
白石:お二人とも謙遜しているけど、面白い記事をたくさん書いているじゃないですか!世間の評価もある。何が面白いのかを言語化してみると、林さんはそれを読んだあと世界が変わる、見え方が変わるということでしょうか。
林:いや、なんかそれだと真面目な人になっちゃう(笑)。笑うって意外だから笑うんですよね。だから意外性があるものがいい。
ヨッピー:わははは(笑)。
白石:ヨッピーさんは自分の面白さを言語化できてたりしますか?
ヨッピー:僕は別にないです。そもそも僕自身は全然面白い人間ではないので、これを書いたらウケそうとか、ベタで世間的な需要がありそうなところを狙って、本当にハイエナみたいに拾ってきてるだけ。別に目新しいことって何もしてないんですよ。みんなが知ってて、ちょっと気になっていることを実際にやってみようとか、もう少し深堀りしようとか、そういうことしかやってない。あれって、世間の需要とかとはかけ離れた場所にあるじゃないですか。
林さんの「ペリーがパワポで提案書を持ってきたら」とか、「カフカ『変身』をネット通販風に描く」みたいな発想ができないんですよね。
僕の場合、AV男優のしみけんさんがどんな一日の過ごし方をしているか密着してみるとか、女優の『のん』さんを引っ張ってくるとか、誰もが既に知ってることをもう少し深く掘るようなことしかできないけど、林さんは誰も知らなかった面白さをやってる。
林:でも記事って知らないことを書く方がいいような気がするけど、「スーパーカップ美味い!」みたいな記事の方が実はウケるんですよ。ガイドブック見るときって、まずは知ってる店を探すじゃないですか。「知ってる」ということがみんな大好きなんですよね、だからヨッピーさんのやり方は正しい。
ヨッピー:そういえば、こないだ「仙台の牛タンはうまいことがわかった」って記事出してたじゃないですか。牛タン食べてるだけなのに、めっちゃウケてましたね。もちろんライターさんの力量もあるんですけど。
林:鳥貴族サイコーって記事もウケてたし(笑)。作る側としてはこれでいいのかなって思いますが、月末になってPV足りないなってときは、投入しちゃいますね。
どれくらい分業している?
白石:次は、林さんからの質問「どれくらい分業している?」の話を聞いていきたいと思います。
林:ヨッピーさんの記事は編プロが入ることが多いと思うんですけど、誰が企画立てて、取材先決めて、アポとって、写真撮ってるのかなって。
ヨッピー:企画ごとに全然違いますね。基本的に僕が企画を立てて、クライアントからOKが出たら始めるんですが、アポ取りも自分でやったり三脚立てて写真を一人で撮ったりもしますね。もちろん編プロさんが入ってる時はあれこれお手伝いしていただきますけど。
林:デイリーポータルだとライターがアポとって、自分でその辺全部やってるんですが、編集部でももっとディレクションしなきゃいけないんじゃないかと思ってて。一人だけでやるより、お膳立てしたほうが記事の広がりが出るから。
ヨッピー:それってライターにもよるんじゃないですか。僕だと、編集との息の合い方で違うんですよね。3行くらいのメッセージでやりたい企画を投げた時に、編集の頭の中で僕と同じ構成が思いついてればいいんですけど、そうでないと「なんでその企画でそこの取材先にアポインととってくるの?」みたいなことになる。
例えば、風邪の治し方をお医者さんに話を聞きたいと思ったときに、こっちとしては権威がある大学教授とかね、どっちかっていうと研究機関みたいなところに話を聞きたいのに、その辺の町のお医者さんのアポをとってくるような。もちろん町のお医者さんが悪いというわけでは全然ないんですが、この場合の説得力でいうと研究機関とかの方がいいわけで。そういう、あうんの呼吸がとれてる場合はアポも含めてお任せしますが、そうでないときは自分でアポを取るようにしてますね。
白石:じゃあ、順序として「企画を考える」⇒「アポとりなどの準備」⇒「取材」⇒「執筆」⇒「公開」ですが、ヨッピーさんはどこまでやってるんでしょうか。
ヨッピー:それも企画ごとに違いますね。オモコロというメディアだと、9割くらいできた段階で「あとはよろしく」って投げちゃいます。原稿も「だいたい書いたよ」って渡すと、アイコン入れたり、集中線入れたりとか、オモコロを運営しているバーグの社員がなんかうまい具合にやってくれるんですよ。
林:えー集中線ってバーグ(※バーグハンバーグバーグ)が入れてるの? ヨッピーさんといえば集中線だから、自分でやってるんだと思ってた。
ヨッピー:それは彼らを信頼しているから、9割の出来上がりの段階でもまるっと渡せるんですよね。彼らから「最後までやれや!」って怒られるかもしれないけど、でも僕が最後まで仕上げるより、彼らみたいにセンスがある人に手を入れてもらった方が最終的な完成度は高いな、って気づいて。逆にそうじゃないところだと、行間が広い・狭いまでこっち指定するし、なんならCMSの入稿権限もらって自分で調節して10割まで仕上げますね。
白石:そういう行間というかスタイリングみたいなこともやってるんでしょうか。
ヨッピー:普段はほとんどやらないです。よっぽど「ここは全部自分でやらなきゃな」っていう相手と組まない限りは。
林:僕は結構HTMLいじっちゃいますね。行間あけたいなとか、改行を増やしたりとか、見やすいようにソースいじっちゃたり。
仕事を頼みやすいライターはどんな人?
ヨッピー:仕事を頼みやすいライターって、どんな人なんですか?デイリーポータルで書きたいってライターはたくさんいそう。
林:いや、そんなに来ないけど、自分の書きたいテーマが決まってる人かな。ただし、専門家タイプじゃなくて、下手でもいろいろやってるほうがいい。あとは明るくて、社会性のある人(笑)。
白石:デイリーポータルさんは、どんなフローで作ってるんですか?
林:ライターがこういうのを書きたいという企画を出してきて、前に誰か書いてないかとか、外部に出していい情報かどうかチェックして決めてます。基本は対面の企画会議が10日に1度あって、みんなで集まってお菓子食べながらおしゃべりするだけなんですけどね。来れない人はチャットとかで。
白石:それは編集部だけでやるんですか?
林:ライターも入れて40人全員です。でも自由参加だから集まって10人くらい。集まらないと3人だけ。なるべく来てほしいですね。企画として進んでる段階よりも、あれ気になってるってネタ段階の話を聞きたいから。
ヨッピー:企画って、夜中の2時3時くらいのべろべろに酔っぱらってるときが一番面白い企画が出たりしません?それで実際やってみると、ダメなパターンも多いですけど(笑)。
企画やアイデア出しのコツやノウハウはある?
白石:企画やアイデア出しで心がけていることやコツ、おすすめのツールやノウハウとかあれば聞かせてください。
ヨッピー:例えば家から会社に行くまでの間に、「1万円札が落ちてる」って情報を知ってたら必死で探すから、落ちてたら気づくじゃないですか。でもその情報を知らなければ、気づかずにそのまま歩いちゃう。普段からなんかいいネタないかなって考えてるから、落ちているネタに気づくってことなんじゃないかなって思ってます。
初詣にベビーカー持ってていいとか悪いとか論争があったときに、「初詣にベビーカー持って都内をうろうろする記事を書いたらウケるからやってみて」って、友だちのライターに言ったんですよ。実際にやってみたら、やっぱりウケるんですよね。なので、僕は今話題になってることにのっかって、地道に1万円札を集めてるだけなんです。
白石:ヨッピーさんといえば、オモコロで下ネタの帝王だったイメージがあるんですけど、最近はあんまり書いてないですね。
ヨッピー:それには悲しい歴史があるんですよ……!下ネタが好きでずっと書いてたら、僕よりひどい下ネタを書くキショ松ってやつがオモコロに入ってきたんです。そうするとオモコロの中で、下ネタの比重が上がっていくじゃないですか。オモコロ全体のためにもよくないし、僕もこんなやつと競って下ネタばっかやってたら、先が行き詰まるから「じゃあ、今後はお前が下ネタをやれよ」って譲りました。
で、体を張っていろいろ企画をやり始めたら、今度はとてつもない数字をもったARuFaというやつが入ってくるんです。僕が体張るだけじゃ彼には絶対勝てないから、別のことやろうといろいろ試行錯誤した結果が今なんですよね。負けて負けてなんとか今のポジション見つけて、しがみついてるだけなんです。
白石:林さんはどうですか?
林:時事ネタはやりますね。去年ポケモンGoが流行った時に、ポケストップのコスプレして実写する人がたくさん出ると思って、すぐやって原稿の掲載も前倒して載せたんですよ。でも、誰もやらなくて。なんであんなにあせってやったんだろう(笑)。
白石:そういう発想ってどこから生まれるんですか?
林:発想術とかそういうの期待されてると思うんですが、よくセミナーでキーワードでしりとりすると出ますとかいいますけど、実際はあんなことしないですね(笑)。間違い探しって、いかにも間違いがありそうな探し方のコツがあるじゃないですか。そんな視点で世の中見てると見つかることはあります。
白石:編集会議ではブレインストーミングとかはやらない?
林:本当にお菓子食べてるだけなんです。デイリーポータルのライターは面白がりが多いですね。お店でも見たことないメニューは頼むし、地方の変なおみやげも競い合って食べる。
ヨッピー:やっぱり好奇心が大事ですよね。
林:ヨッピーさんの記事は企画がしつこいですよね。なんか調べてそこで終わりじゃない。なんかもうひとひねりあるというか、しかも二記事に分ければいいのにって思うくらいボリュームがある。
以前、江の島ってライターが23区の清掃工場の煙突見てまわりますっていうから、面白そうな5個くらいでいいんじゃないって止めたことがあるんですよ。自分の達成感と面白さは必ずしも一致しないからって。でも、もっとやれって応援した方がよかったのかなあ。
白石:僕はヨッピーさんの変態仮面に写真がパクられた記事がすごく面白かったんですけど、どういうふうに作ったんですか?
ヨッピー:あれは今ほどキュレーションメディアやパクリ問題が表面化してなかった頃の話なんですよ。今の時代ならネタにしちゃうと怒られそうだけど、当時はそんなに問題になってなかったのでネタにしちゃえ、みたいな。変態仮面という映画が僕の写真をパクったんで、お金もらってパンツを買って渋谷で配ったら、警察につかまって終わりという。
白石:デイリーポータルで好きだったのは、地味なコスプレ企画です。
ヨッピー:あー、あれも良かった。こういう発想、僕本当にできないんですよね。「地味なコスプレをやってほしい」なんてニーズ、世の中には存在しないものじゃないですか。
林:あれは面白かったですね。この企画はハロウィンって自由に遊んでるふりしてるけど、みんなで同じ格好してて制服みたいだって皮肉なつもりではじめたんですよ。
ヨッピー:「ハロウィンの前日の人」っていうコスプレが秀逸でしたね。
白石:ARuFaさんが運動会のお母さんってやったのもこれでしたっけ。
林:そうです、そうです。
白石:なんか面白い裏話あります?
林:店員のコスプレしてくる人いるから、誰が店員かわからないとか、ADのコスプレして、あと何秒って出してくる人もいて、あんなADいたっけとか。妻の出産に立ちあう旦那とか、こういうのみんなやりたいんだなあって驚きましたね。
ヨッピーさんがブランディングできてるのはなぜ?
白石:次はコンテンツで金を稼ぐとか伝えるってことを聞いてみたいです。タイトルやバズらせるためにやってることや、SNSとか。林さんがヨッピーさんに聞いてみたいは「自身のサイトがないのにブランディングできてるのはなぜか?」とのことですが、いかがですか?
林:ヨッピーさんて自分のホームグランドがないじゃないですか。そのわりには、ヨッピーが書いた記事はどこでも統一感があるというのがすごいなと。
ヨッピー:逆にそれしかできないからかと。最初に自分の顔を出そうというのは、昔から決めてますね。結局覚えてもらわないと積み重ねができないので。
林:ホームベースのメディアがないのに、ヨッピーって名前が世の中に知られているのはすごい。
白石:オモコロをメインに書いてたときは、社員だと思ってました。
ヨッピー:やりたくないことをやってこなかったからじゃないですかね。これは僕じゃなくてもいいなと思う仕事は貧乏な頃からもずっと断ってきたから、自分らしさが出てきたっていうか。企画を進めているうちに、これ僕じゃないほうがいいなと思ったときは途中でも抜けたりもします。
白石:フリーランスって立場が不安定だし、来た仕事ってなんでも受けちゃいがちですが、ヨッピーさんは気に入らない仕事は断っちゃうと。
ヨッピー:断っちゃいますね。あと、本当はよくないかもしれないのですが、運営会社が別のメディアででも、二本の記事を若干のストーリーを含ませて出したりするんですよ。例えば、ヤフーニュース個人というサイトでPCデポのことを書いたあとに、インテリジェンスが運営しているi:EngineerというサイトでPCデポと揉めて疲れたからスマホなしで旅に出るみたいな。僕のフォロワーだったらわかるけど、独立した記事になってないんです。
サイバーエージェントの悪口を書いたときもそうなんですが、インターネットでケンカしたあとに出す記事は僕がひどい目に合う記事にしようって決めてるんです。それでバランスをとるといいますか。ケンカばっかりするやつだと思われたくないですし。ブランディングのために他のサイトにまたがって一連のストーリーに仕立てたりはたまにしますね。サイバーのときは自転車で100キロ走るというのをやりました。
林:編集から「これってヨッピーさんの別の記事の続きじゃないですか」って言われないんですか?
ヨッピー:言われます。
林:それを期待しているところもあるのかな?
ヨッピー:たぶんあると思うんですが、どうなんだろう……?本当は嫌がってるかもしれないですね。でも数字とかはやっぱりその方が良かったりするんですよ。
林:デイリーポータルはサイトとしてのブランディングを作りたいという想いがあって、どこでも読めるサイトじゃなくて、鎖国しようかなと考えてるんです。だから、スマートニュースみたいなニュース配信サイトから脱退したいと思ってて。ただ、ヨッピーさんみたいに個人のブランディングができてる人を見ていると、これからはサイトじゃなくて個人のブランド力なのかなって気もしていて。
ヨッピー:でも、デイリーポータルほどブランディングできてるメディアなんて、世の中にないからそれでいいんじゃないですか。
林:言うほど悩んでもないんですけどね(笑)。いまデイリーポータルアプリも作ってて、審査中なんです。オモコロとか面白系の記事も入れちゃおうって計画しています。
ヨッピーさんはなんで写真で笑わないのか?
白石:林さんからの質問で、「なんで写真で笑わないのか?」ってありますが。
林:ヨッピーさんの影響を受けたライターが、みんなむすっとして出てくるじゃないですか。デイリーポータルではやってないことなんですけど、あの意図はなんですか?
ヨッピー:意図はないです。ただいきなり笑顔から始まるとしんどいっていうか、毎回笑顔のやつが出てきたら嫌いになりません?
林:たしかに笑顔がうっとうしいってありますね。笑顔だと意味が出ちゃうからかな、なるほどね。
タイトル付けはどうしてる?
白石:タイトルって重要だと思うんですけど、どうですか?
ヨッピー:僕は最近やっとSEOを気にするようになって、たくさん検索されて、流入が増えるキーワードみたいなのを覚えはじめました。
白石:タイトルって編集者がつけてますか?それとも自分で?
ヨッピー:僕は全部自分でつけてます。SEOは意識してなかったんですけど、最近は観光系の記事を書くことが増えてきたので 観光記事を書くときは意識しますね。検索で、「〇〇×観光」って入れたときに上に出てくるようにしたいから。それ以外は別に考えてないです。
林:僕らはSEOとか一切気にしてないんですよ。だってタイトルがGifな時点でSEO的にはダメですよね。
──会場爆笑
ヨッピー:画像なんだ!これ(笑)。でも検索流入めちゃくちゃ多いですよね。
林:出てくることは出てくるんですが、SEOに詳しい人に聞いたら、手をつけるところがいっぱいあるって言われました。ひどいって(笑)。
タイトルは、わかりやすくするくらいしか気にしてないですよね。あまりにも変なタイトルつけてきたら変えてくれっていいますけど。個人の話として書いてくれと言ってるんですが、タイトルはそれだと引きがないから具体的な内容や固有名詞を入れてくれというお願いもしています。
きわめて個人的な話が書いてあるけど、いきなり個人の話をタイトルに入れても何の話かわからない。個人名を入れていいのは宇多田ヒカルと村上春樹だけだとライターには伝えてます。
タイトルの付け方でテクニックに走るって、メッセージ性がなくてよくない。テクニックだけだと、その先にあるのはキュレーションメディアなんです。やっぱり魂あってのテクニックなんで、まずは何を言いたいのかきちんと伝えようってことですよね。
ヨッピー:僕がつけるタイトルって、Youtuberぽいんです。でもオモコロの中だと僕の書く記事のタイトルは長いほうで、もっとみんな短いですね。「エビフライ」だけとか、わけわかんない。
林:まとめると、わかりやすく、固有名詞は入れときましょうとか、タイトルはGifはやめましょう。あ、読めない漢字は使わないこと。読めないとみんなクリックしないので、迷ったら全部ひらがなにするとかくらいかな。
林さんがサラリーマンをやめない理由
白石:ヨッピーさんから、「サラリーマンをやめない理由」を聞きたいとのことですが。
林:僕、2000年くらいに本を出してから、個人のライター仕事が増えたんですよ。雑誌の連載も何誌か書いてて月20万円ほどのお金にはなったんだけど、休みはなくなるし、すごく大変だった。こんなに苦労するなら会社で出世したほうが、勤務時間だけ働けばいいし、収入的にもあんまり変わらないかなって。
白石:ヨッピーさんはなんで聞いてみたかったんですか?
ヨッピー:僕ならやめてるかなって。デイリーポータルを50億くらいでどこかに売っぱらって(笑)。そのお金でデイリーポータルZ 2を作ったらいいんじゃないかって。
林:デイリーポータルは会社の資産だから売れないって(笑)。あんまり儲かってはないんですが、好きなことをやらせてもらって、会社から給料をもらってる。会社員もメリットあるかなって思ってます。
白石:デイリーポータルはブランディングという立ち位置なんですかね。
ヨッピー:林さんは野望とか夢とかってないんですか?よくあるじゃないですか。Webで人と人をつないでとか、地方を活性化させるとか。
林:ああいうの、嘘くさいですよね(笑)。〇〇を通じて社会に貢献とか、よくあるけど、社会に貢献したいって思ったりすることあります? 俺はないなあ。「〇〇を通じて」に無理があるっていうか…。
白石:アイティメディアさんのインタビューではひたすらデイリーポータルを続けていきたいって話したじゃないですか。あえて言うなら続けるってことでしょうか。
林:そうですね。デイリーポータルの目的は続くこと。ひたすら続くことを考えてます。
白石:ニフティさんはこないだ二つに割れて、エンタープライズ部門が富士通、コンシューマー部門はノジマさんが買われてましたね。
林:なんでノジマがって思いますよね。でも面白いことになるんじゃないかな。意外に紳士的で経営には口を出さないって言ってくれてて、ニフティはニフティでこれまで通りでやってくれと。これからも変わりがなさそうです。
記事を書くとき、数字目標どうしてる?
白石:ヨッピーさんは数字やお金とかって関しては、記事書くときに何PV出せとか保証しろって言われますか?
ヨッピー:保証しろとは言われませんが、僕から努力目標として「どのくらい数字が欲しいんですか?」って聞いてます。欲しい数字が記事のPVなのか、ほかにもFacebookいいねとかTwitterのツイート数、はてブの数とかいろいろあります。
白石:それって欲しい数字の種類によって、コンテンツの企画にも影響してきますね。
ヨッピー:はい。それぞれに向いてる企画ってあるし、数字少なくてもいいなら安くてもいいけど、多いなら予算たくさんほしいです。
林:PVってお金かけるとある程度いきますよね、見た目が派手になるから。例えば洞窟を借りるなんてことをしたいとしたら、やっぱりお金がかかるんですよ。数字と予算はシンクロすると思います。
ヨッピー記事1本に予算10万円以上使えるWebメディアってなかなかないから、そこで差別化できますよね。僕この前、別府市の遊園地を温泉にするっていうクラウドファンティングのPR記事で、別府市の市長にインタビューに行ったんですよ。そしたら市長にヨッピーはいくら支援してくれるんだっていわれて、16万円払わせられたんですよ。ひどい話ですけど、でも見ている人からしたら痛快じゃないですか。そんな感じで単純に自分がお金ほしいというよりは、企画に予算を使いたい、派手なことがしたいみたいな感覚は結構あります。
キュレーションメディアや制作コストの話
白石:去年から騒がれてるキュレーションメディアの制作費やコスパの話ってどう考えてますか。
林:怒りしかないですね。キュレーションメディアって、SEO対策とかのテクニックだけで流入させるお金を稼ぐための方法ですよね。何か伝えたいという記事へのメッセージ性がない。
一番腹が立つのは、デイリーポータルの写真はパクられないってこと。パクられた―って怒りたいのに(笑)。デイリーポータルの写真ってライターの顔がちょいちょい入ってるからパクリにくいみたいなんですよね。美味しいケーキ屋さんの写真ならパクられるのかもしれないけど、深海魚とか煙突とかって価値がないのかなって。
ヨッピー:キュレーションメディアに僕がつっこんでいくかどうかはおいといて、いつか無理が出るだろうなって思ってたから、こうなってよかったなって思ってます。僕はパクられたから怒るというより、検索結果に上のほうに出てくるのは邪魔だなというむかつきのほうが大きかった。まわりがたくさんパクられててまずいなとは思ってたけど、キュレーションメディアにパクられたから稼げなくなる、みたいなことで焦ったりすることはなかったですね。
林:取材して書いて経験を積むから、力がつくんですよ。面白いところに行けたら見分も広がるのに、一番面白いところやんないでパクってるだけって、そんな仕事楽しいのかなって思いますね。
ヨッピー:それで時給3000円もらえるんだったらまだわかるんですけど、キュレーションメディアのライターって時給換算でも安いっていうじゃないですか。文章書く楽しみも、取材で面白いとこに行く楽しみもないってかわいそうですよね。ライターの仕事って儲からないけど、普段行けないところに行ったり、気になる人に話聞けたりする楽しみがあるからいいやってとこあるじゃないですか。その楽しみも捨てて、なんでコピペだけやってるのかなって思います。
白石:記事コストについてはどうですか?
林:普通に取材して書くとしたらだいたい取材に1日、執筆に1日、合わせて丸2日かかるんですよね。それで原稿料2万円とか、ライターが食べていけない原稿料だと構造的にいつか終わっちゃう。
なんかWebメディア業界のライターが演劇業界みたいな食えないけど楽しいからやってるじゃなくて、どっかからお金もらってきて、ちゃんとひと月暮らせるようにしなきゃなって思ってる。
ヨッピー:Webメディアも過渡期で、ここ2~3年で玉石混交でわけわかんないのいっぱい出てきましたけど、だんだん勝ち組と負け組に分かれてきてると思うんですよね。負け組はコピペから逃れられない、勝ち組はコストが使える。この差が出てくるともっと落ち着いてくると思います。
最近は取材できるライターの需要が高まっているし、高い給料でライターを集めているWebメディアも出てきたし、稼げるようになってきている。もしくはデイリーポータルみたいな人気サイトで書いているといえば、おそらくどこでも仕事くれるんですよ。PR記事の需要も増えているし、この傾向が続けば、Webメディアでも儲かるようになるのではないでしょうか。
ネイティブ広告は普段やれないことができるチャンス
白石:そういうコンテンツで稼ぐ勝負というか、ネイティブ広告についてはいかがですか?
ヨッピー:僕、めちゃくちゃ書いてます。半分くらいそうかも。なくなると困る(笑)。ネイティブ広告は普段できない企画をやらせてもらえる機会だと思ってるので、ありがたいです。
林:デイリーポータルもめちゃくちゃやってますね。
ヨッピー:僕はLINEの谷口さんや林さんがやってるの見て始めたんですよね。宣伝記事って基本嫌われるじゃないですか。でも、デイリーポータルは普段より記事が派手になるんですよね。スポンサーがいるから予算かけられるし、そうなるとユーザーも受け入れるんですよね。ここまでクオリティ上げれるんだって。じゃあ僕もそうしようって頑張って真似しているかんじです。
白石:デイリーポータルやヨッピーさんとか書いてるものを見ると、最初からPR広告だって言ってるから、すがすがしさがありますね。ちなみにネイティブ広告って作るの難しいじゃないかなって思うんですけど、アイデア出しとか、普段と違ったりしますか?
林:アイデアの出し方はテーマや商材ありきなんで、通常とは逆に発想術的なこともやりますね。あとはクライアントと仲良くなるのがいいじゃないかな。
広告って変わったことをすべき。オーソドックスなことって会社に損害を与えていると思うんです。PRみたいなことで、普通な真面目な意見って損だし、お金の無駄使い。
ヨッピー:たぶんデイリーポータルに仕事頼んでくる人って、デイリーポータルのファンでしょ。そしたら普段のテイストもわかってるし、やりやすいんじゃないですか。
林:昔からのデイリーポータルの読者が決裁権を持ち始めてきていて、最近はそういう人が発注してくれることが多くなってきました。だから、読者にはどんどん出世してくれって言ってますね。出世してデイリーポータルに発注してくれって(笑)。
白石:ヨッピーさんはネイティブ広告と普通の記事を書くときと違いますか?
ヨッピー:ネイティブ広告はやっぱ数字がモノを言うのでそれに対するハードルは上がりますね。でも、これはすべりそうとか、こんなもんいじりようがないってネタや商材のときはすぐ逃げます(笑)。「うちの社長面白いから、ぜひいじってください」っていうのは、だいたい面白くないやつ(笑)。
林:でもここ数年面白広告が多すぎて、最近ちょっと食傷気味。もう少しちゃんと伝える広告をやりたいですね。ほぼ日みたいに全部広告なんだけど、ちゃんと商品を説明しているパターンとか。
2020年のWebメディアはどうなる?
白石:最後のまとめでお聞きしたいんですが、ちょっと近未来、3年後とか2020年はこうなってますよっていうことを聞かせてください。
林:早くAIが面白記事を書いてくれないかなって思ってます。
ヨッピー:えっ!書けますか?
林:だってわりとセオリーあるじゃないですか。取材はしなきゃいけないけど、意外なことを書くとかAIの裏をかくAIとか、構造はあるから。
白石:その時ポータルZはどうなると思いますか?
林:AIに記事を書かせてのんびりしてるんじゃないですかね。取材だけするのかなあ。使われてるかんじしますね。あとはのんびりしてますかねえ。締め切りは守ってくれるし、Twitterで悪口書かないし。
――(会場から、締め切り守らないAI開発されたらどうするかというツッコミが)
林:締め切りを守らないAIいいですねえ。「書いたんですが、消えたんで」とか、「保存がうまくできなくて」とか言い訳されたりして。そしたら俺もAIで返します。自動返信で「それは災難でしたね」とか「とはいえ、締め切りはありますので」って(笑)。
ヨッピー:2020年くらいになったらインターネットの世界から飛び出す人たちがもっともっと出てくるんじゃないかな。デイリーポータルがテレビとかの番組になったりしそう。最近面白い人とかものってインターネットで探すじゃないですか。どんどん飛び出して、いろんなところで活躍するんじゃないかなと思ってます。
白石:そうなったら面白いそうですね。今日はありがとうございました!