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エンタープライズ環境におけるWebRTC活用のポイント─WebRTC Conference Japan

2月5日、6日にかけて「WebRTC」をテーマとした、日本初のカンファレンスであるWebRTC Conference Japanが開催されました。
本記事ではその中でも「エンタープライズ環境におけるWebRTC活用のポイント」というセッションの内容について紹介します。プレゼンターは日本ヒューレット・パッカード株式会社 通信メディアソリューションズ統括本部 スペシャリストの寄高啓明氏。今回は寄高氏の講演再現レポートでお届けします。


 ▲日本ヒューレット・パッカード株式会社 通信メディアソリューションズ統括本部 寄高 啓明氏

WebRTCの特徴

日本HPの寄高(よりたか)と申します。HPといえばPCやプリンター、サーバのイメージをお持ちの方も多いと思いますが、そればかりではありません。弊社はいわゆるソリューション製品やSIなどの業務も行っておりまして、私は通信やテレコム向けのシステムを構築する仕事に従事しております。

なので、どうしても私もテレコムや通信事業者の見方が強くなってしまいがちかもしれませんが、どうかご容赦ください。まず最初に、ここにいらっしゃる方々には釈迦に説法になってしまうかもしれませんが、WebRTCの技術的な特徴をおさらいしたいと思います。

WebRTCは、ブラウザ上でリアルタイムコミュニケーションを実現できるものです。これは、私のようにテレコムの世界で生きてきた人間にとってはものすごく画期的なことです。

何が一番画期的かというと、開発者のベースが大きく広がるというところです。
テレコムの業界というのは、いわゆるインターネット世代の方々は聞いたことのないようなプロトコルを使って、1ビットでもミスがあると通信できないといった世界で生きています。そういう世界で生きている技術者というのは、もうかなり少なくなってしまっている。
一方Web技術者はその10倍、100倍という開発者人口があります。そうした方々の力を借りて、リアルタイムコミュニケーションの可能性を広げていくことができます。

2点目はデバイスフリーです。
ブラウザはスマホ、PC、タブレットと言ったデバイスには既に搭載されていますが、最近ではゲーム機やカーエレクトロニクスなどの分野にも積まれています。将来的にはウェアラブルデバイスや家電など、何にでもWebブラウザは載ってくる。そうしてWebブラウザの利用範囲が広がっていくことで、リアルタイムコミュニケーションの間口も広がっていく。

また、アプリのインストールがが不要であるという点も非常に重要です。
我々開発者とは異なり、一般のユーザにとっては「インストール」という行動は、実は大きなハードルを伴います。私自身もそうですが、友人などの間で評判が良くて安全なアプリしか基本的にはインストールしません。ですが、Webアプリはブラウザさえあれば動作しますので、URLに移動するだけでユーザが使いはじめることができる。導線が非常にスムーズなわけです。

4点目は、Webサービスを作る際に、どういう設計を行うかです。
WebRTCはやはりブラウザ同士のP2Pという文脈で語られることが非常に多いですが、サービスを作る側からすると、何らかのサーバを置くという可能性はどうしても捨てられないところがあります。サービスのユーザが取っている行動を知るためには、サーバ上でログを残したいですし、サーバ上で何らかの付加価値を付けるということもできます。どちらの設計が今後主流になっていくのかはわかりませんが、個人的にも非常に興味のあるところです。

WebRTCのユースケース

今回は「エンタープライズ環境におけるWebRTC活用のポイント」というセッションですので、WebRTCが有効に使えるであろうユースケースについて考えてきました。

ここでは、今現在実現されているユースケースだけではなく、今後可能になるであろうユースケースも考えてまいりましたので、そちらご紹介したいと思います。

まず思いつくのはコールセンターですね。コールセンターというのは、電話とコンピュータが連動する非常に複雑なシステムですが、こちらはWebRTCと非常に親和性がいい。海外ではすでに商用の導入事例が存在します。

ユニファイド・コミュニケーションの分野では、例えばマイクロソフトさんもLinqやSkypeをWebRTCで再実装するなんて噂もありますし、様々な既存のリアルタイムコミュニケーションを統合できる可能性があります。

ビデオやWeb会議の分野で使えるかもしれない、というのはもはや言わずもがなですね。

遠隔教育やヘルスケアの分野など、リモートで人をつなぐ必要性がある部分についても、利用されるのは間違いありません。

このように、よくWebRTCのユースケースとして挙げられるのは、「コミュニケーションというところを軸にして、その入口をブラウザにしましょう」という話かと思います。これらはもちろん実現が望まれるサービスではあるのですが、もう少し違ったユースケースも、WebRTCなら実現できるのではないかと思い、いろいろ考えてきました。

1つ目は「BYOD的活用」と書かせていただいていますが、こちらは具体的にはVDI(Virtual Desktop Infrastructure)だとか、DaaS(Desktop as a Service)といったクラウド側のサービスですね。
こうしたサービスはすでにいろいろな事業者さんが提供されていたりしますが、現状は、リモートデスクトップを表示する端末側も(会社内の)Windowsデスクトップであることが多い。

これは管理のコストを下げたり、セキュリティを向上させるという点では有効ではあると思うのですが、例えば生産性を向上させるとか、ワークライフバランスを改善するとか、そういうところにつながるものではない。ここにWebRTCというスパイスを加えると、ガラッと仕事のやり方を変えられるんじゃないかな、と思っています。

スライドの右側にあるのがDesktop as a Service、つまりクラウドですね。そしてクライアント側のデバイスは、WebRTCでつなぐことで、タブレットでも自宅のPCでも何でもよくなるわけです。これが実現できれば、自宅でも出先でも仕事できる、というユーザーメリットがあります。

BYODは、実際にはあんまりはやっていないんですよね。端末の管理がどうしても問題になってしまう。例えばMDM (Mobile Device Management)だとかMAM (Mobile Application Management)だとか、MCM (Mobile Contents Management)だとか、「MナントカM」でAからZまで全部作れるんじゃないかという。

それはそれで商売になるからいい、という話もあるんですが、こうした管理は企業側にとっても負担になりますし、社員側も自分個人の端末に「MナントカM」のアプリをあまり入れたくはないですよね。

そういう抵抗があって流行らないんじゃないかな、と。この状況はWebRTCなら、アプリのインストールもいらないし、端末側に何も残らないので、打開できるんじゃないかと考えています。

次は、遠隔業務支援です。WebRTCを使っているわけではないですが、近いことをやっているサービスはすでにあります。例えば事故現場を、遠隔地にいる医者や新聞社とリアルタイムに共有する…なんてことは行われている。

私はさらに、(WebRTCによってリアルタイムコミュニケーションの敷居が下がるので)一工夫加えられるんじゃないかと考えています。例えば事務処理なんかも、リアルタイムに現場と映像を見ながらやりとりできるんじゃないでしょうか。

続いて、このユースケースはちょっとこわいんですが、デスクトップの監視とかにも使えるだろうな、と。具体的なユースケースとしては、私の友人がSkypeでオンライン英会話を行えるサービスを使っているらしいのですが、講師の中にはバスローブやネグリジェを着て現れる先生がいたり、裏で友達とチャットをしていたりゲームをしていたり、講師側のガバナンスが効いていないそうなんですね。これを、デスクトップの映像をサーバ側に保存することによって、監査の目が行き届くようにするといった具合です。

で、こうしたユースケースをいろいろ考えていくと、弊社では「まずは作ってみよう」という話になるわけです。実装してみた上でWebRTCに期待することや、現状の課題なんかも見えてきました。最後に、それらを情報共有させていただければと思います。

WebRTCの期待と課題

まずはWebRTCに期待することからですね。

1つ目は、このセッションの最初の方でも申し上げましたが、デバイスフリー時代の幕開けです。どんなデバイス上でも、同様にリアルタイムコミュニケーションが行える時代がやってくる。

2つ目は、リアルタイムコミュニケーション技術-いわゆるVoIPなどのテレコムの技術が開放されます。これも開発生産性の向上などでメリットが大きいですね。

3つ目は、企業システムとの親和性です。Webのシステムは、企業のシステムと非常に親和性が高い。例えばERPやCRMと言ったシステムとの連携は非常にやりやすい。

そして最後に、一番個人的に期待しているのは、アドホックな利用です。スマホのアプリを使い捨てるというのはなかなか考えにくいですが、Webアプリならそれが可能です。WebブラウザでURLでアクセスするだけという軽いユースケース、これが今後広まっていくんじゃないかなと考えています。

一方で、実際に作ってみるといろいろ課題もありました。

1つ目がバッテリー消費。スマホだと顕著ですね。ビデオ通話などをしていると、あっという間に電池が減っていきます。

2つ目がブラウザの対応です。Chromeなんかですと、定期的にバージョンアップされてしまいますので、「いつの間にか動かなくなった」ということもよく起こります。

次がネットワークの帯域制御です。私自身がテレコムから来ている人間ですので、QoSですとか、みんなが使うサービスとしては大丈夫なのかな、というところが気になっています。

あとは着信の問題です。現時点では、着信を可能にするためには、ずっとWebブラウザを立ち上げておく必要が生じてしまう。ここは知恵の絞りどころですね。

最後にセキュリティです。これは永遠の課題ですので、今後も専門家を交えて検討が進むんだろうなと考えています。

弊社でもWebRTC Platformというものを考えております。その図を示して、本セッションを終わりにしたいと思います。ありがとうございました。