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2020年末でサポート終了するFlash Playerを支えた、Flashテクノロジーの全盛期と衰退を振り返ってみた

こんにちは、HTML5 Experts.jp編集部の馬場美由紀です。【懐テク】トークライブ第二弾、今回のテーマは、Adobeが2020年にサポートを終了すると発表した「Flash」です。

Flashに造詣の深い池田泰延さん、沖良矢さん、轟啓介さんをゲストにお迎えし、Flashという技術の歴史、またFlashの役割を受け継ぐ新たな技術とは何なのか、とことん語り合っていただきました。

※「懐かしさ」には個人差があるので、「Flashはまだ懐かしむ段階じゃない」というツッコミもあるかもしれません。そこはどうかご笑覧ください!

今回のゲスト紹介

白石:今回ファシリテーターを務める、HTML5 Experts.jp編集長の白石俊平です。まずは皆さんのFlashとの関わりについて、自己紹介をお願いします。

池田:僕はFlash歴15年で、Flashに関する本も10冊書いています。沖さんと一緒に雑誌「Web Designing」の連載をしたり、Flashのオープンコミュニティでも活動していました。今日はなぜFlash Playerがこんなに追い込まれてしまったのか、その不満についてもぶちまけつつ、Flashが果たしてきた役割について語りたいです。


株式会社 ICS代表池田 泰延さん
フロントエンドのテクノロジーを紹介するサイト「ICS MEDIA」の編集長。個人実験サイト「ClockMaker Labs」やセミナー・書籍執筆などの活動を通して積極的にインタラクションデザインの情報共有に取り組んでいる。筑波大学 非常勤講師も務める。Flashに関する著書は10冊。「Papervison3D入門」「ActionScript3.0ライブラリ入門」「ProgressionによるFlashコンテンツ開発ガイドブック」「Stage3Dプログラミング」など。

:Flashはバージョン4.0から始めて、いまだに使っています。過去には、Adobe公式FlashユーザーグループF-siteの代表も務めていて、思い入れもいろいろあるんですが、ユーザーとして使っていた時間が長かったので、今日はユーザー視点で語りたいと思っています。


世路庵 インタラクションデザイナー 沖 良矢さん
1981年愛媛県生まれ。フリーランスとしてWebを中心としたテクニカルディレクション、フロントエンド開発、スマートフォンアプリ制作など様々なプロジェクトに参加する。雑誌『Web Designing』では、2009~2015年の6年間、FlashのTIPS連載を担当した。クリエイティブコミュニティDIST主宰、Adobe公式FlashユーザーグループF-site代表。

:僕も最初に触ったのは4.0からですね。ActionScriptが出たあたりで、アドビに入社したので、ユーザー年数としては短いかもしれません。今日は会場に猛者がたくさんいるのでインタラクティブに語っていきたいです。


アドビ システムズ 株式会社 Creative Cloud マーケティングマネージャー 轟 啓介さん
1999年、早稲田大学理工学部を卒業後、大手印刷会社に勤務。主にEC分野で J2EE開発に携わるが、Adobe Flexとの衝撃的な出会いを機にリッチクライアントの世界へ。2008年4月、アドビ システムズ入社。アドビのWebツール全般のマーケティングを担当。オブジェクト指向が好きで、クラス設計やプログラミングをしている時はシアワセを感じるが、現在はプライベートプロジェクト用にやっている。デザインも好きで、デザインが適当な全てのものを憎んでいる。

白石:僕はFlashは軽く触ったことがあるくらいなので、皆さんの話を聞きながら、学ぶという立場で聞いていきたいと思います。

なぜFlashは流行ったか

白石:まずは、なぜFlashは流行ったのかについてお話を聞かせてください。

池田:Flashが盛り上がり始めたのは2000年前後ですね。

:個人的な認識ですが、Flashの盛り上がりには3回ピークがあったと思います。第一次ブームはまだモデムでアクセスしていた98~99年くらい。中村勇吾さんの「yugop.com」を代表とする軽量でダイナミックなアニメ―ションが話題になりました。Flash 4や5の時代ですね。

第二次ブームはFlash Player 6でビデオが再生できるようになった頃。Windows Media PlayerやReal Playerなどの重いプラグインを使わなくても再生できる便利さから、ビデオ再生プラットフォームとしていろんなデバイスに普及するきっかけになりました。

白石:その後、YouTubeやニコニコ動画が出てきたんでしたっけ。

:そうですね。当時はマシンパワーも非力だったし、軽量なFlash VideoがWebサイトにおける動画コンテンツの救世主になったかんじです。

:あと2ちゃんなどの独特の文化とFlashのシュールなコンテンツがすごくマッチしてた。そんな文化的な背景もFlashが盛り上がった理由の一つなんじゃないかと。

池田:この「まだ生きてる歴史的Flashページまとめ」は僕がまとめたものなんですが、togetterで昔のFlashページを懐かしむというものです。主に2ちゃんのFlash板に投稿されたものがまとまっています。吉野家ゴノレゴなんかはすごく人気がありましたね。

:第三次ブームはいわゆるフルFlashサイト。ビデオの表現力のあとにフィルターが入ったり、ActionScript 3.0で高度なスクリプティングができるようになって、Flashだけでリッチかつ情報量を備えたサイトを作れるようになった。表現力が広がったことで、広告関連や企業のコーポレートサイトなどもフルFlashサイトで作られるようになっていきました。

白石:その頃は僕でさえ、コーポレートサイトをFlashで作ってましたからねえ。

池田:当時はインタラクティブなものはだいたいFlashで作ってましたよね。今から考えると、SEO対策やアクセシビリティ的には最悪でした(笑)。

クリエイティブとFlash

白石:では、具体的にどんなクリエイティブがFlashの盛り上がりに影響を与えていったのか、お聞かせください。

池田:やっぱり広告なのかなと。特に、企業のスペシャルサイトでよく使われていました。例えば、モリサワの「FONTPARK 2.0(MORISAWA)」。ユーザーもフォントのパーツを自由に動かして、投稿できるというものです。

:Flashはこうしたユーザー・ジェネレイテッド・コンテンツという文化を流行らせた一因にもなっていますよね。

池田:こうしたコンテンツを見ているとわかるんですが、文字の細かいシズル感や効果音などの表現が凝縮されてるんですよね。クリエイターとして単純に憧れてました。

:THE ECO ZOO(ECODA!DOBUTSUEN)は3Dで作られていて、当時としてはかなり画期的なサイトでした。普通こうした3Dコンテンツを作るにはPapervision3Dなどを使うことが多いんですが、作者の城戸雅行(ROXIK)さんがすごいのは、フレームワークや仕組みの部分から全部自分で作ってしまうこと。おそらく、他のフレームワークで同じようなコンテンツを作ろうとしても、重くて動かせないと思います。

池田:当時はリアルタイムで3Dをたくさん動かすには性能的に難しかったので、プレレンダリングでボケた葉が舞う画像を先に作っておいて、そのぼかしたキャッシュを表示させるなど、相当研究されてましたね。

:Flashのコミュニティでは、そういった企業秘密になりそうな技術的なこともオープンに公開していたから、みんなで面白いものを作ろうぜという雰囲気になっていったんですよね。

:同じソフトを使っている人が集まって定期的に勉強会を開くのは、Flashのコミュニティが初めてだったんじゃないでしょうか。

池田:オープンソースの考え方が入ってきて、Flashのコミュニティが盛んになってきたのは、日本で言うとSpark projectが大きかったですね。当時高校生だった新藤愛大さんが、未踏ユースで採択されたことをきっかけに、著名クリエイターたちも参加するようになり、それまでバラバラに出ていたライブラリやフレームワークなどを集約して共有するようになった。ProgressionやFLARToolKitなんかも、このSpark projectで公開されました。

:まだGitHubがなかった時代に、今と同じことをやってたというのはすごいですよね。

池田:FLARToolKitは海外からの反響も大きかったですね。

白石:テレビのアニメや映画広告でもFlashが使われていたんですよね。

:そうですね。テレビや映画でもアニメーションツールとして使われるようになって、最近では湯浅政明監督の「夜は短し歩けよ乙女」、過去には「鷹の爪団」や「おしりかじり虫」なんかもそうですね。テレビのCG合成やPlayStationのゲームのUIなんかにも使われていました。

:ガラケーはFlash Liteを使ってましたね。

池田:Flashは極限まで軽量に作れるので、いろいろ工夫すれば30Kくらいまでファイルサイズを小さくできたんですよ。

:Flash Liteのノウハウは独特で職人技でしたよね。

池田:今では考えられないですけど、SWFファイルをサーバー側で書き換えるとか、マニアックなこともやってました。

白石:皆さんはFlashでどんなものを作っていたんですか?

:もう10年近く前になりますが、「地球と気象」という、気象に関する教育コンテンツの制作を担当しました。Flashはアニメーションでさまざまな事象を簡単に表現できるので、教育系の仕事には重宝していました。

池田:僕は、個人で作った作品やデモを「Clockmaker Labs」に載せています。流体表現や物理計算などを研究しながら作ってました。

:この時代は、小さい作品をたくさん作って自分のサイトで公開するという文化がありましたよね。今だとCodePenやQiitaで書くという人が多いんですけど。当時は素材を描くところから演出してプログラミングするところまで、全部一人で作れてしまうので、作家性が発揮しやすかったように思います。こうしたコンテンツが再生できなくなっていくのはさみしいですね。

Flashの拡がり、そして現在に至るまで

白石:続いては、ActionScript 3.0、コミュニティ、Flex、Adobe AIR、そしてiPhoneによって、Flashがどう拡がり、現在に至ってしまったのかを語っていただきたいと思います。

:僕はまさにAdobe Flashの頃から、ユーザーとして付き合い始めました。それまでJavaでサーバーサイドの開発をしてたんですが、業務アプリケーションとして使いたかったんですがちょっと不安定だったんです。ActionScript 3やオブジェクト指向が使えるようになって、開発環境もEclipseが使えるようになって、すごく面白くなってきた。Flexのコミュニティもかなり盛り上がってましたね。

ブラウザの互換性もあり、チーム開発もできそうということで、企業の業務系アプリケーションとしても導入のしやすさがあった。僕はその頃、サーバーサイドからフロントエンドに移ったんですが、とにかく楽しかったのを覚えています。

池田:Flash Playerのブラウザ互換性はとにかく高かったですね。MacでもWindowsでも同じように動いていた。Playerのバージョン検知も古いバージョンだと促してくれてましたね。

:アップデートすると、数カ月でユーザーの80%くらいはアップデートしてました。

池田:Flex Frameworkというのは、MXMLという言語で画面を生成するライブラリで、今で言うとReact.jsやAngular.jsに近い。保守性が高いため業務系アプリケーション、Rich Internet Application(RIA)なんかでよく使われていました。

:さっきの話にも出ていた昔のシズル感というか、ふわっとしたかんじの表現が業務アプリケーションにも入ってきた瞬間でした。ようやく業務系アプリにも作業を効率化させて、気持ちよく使おうという流れになってきた。

白石:ECMAScipt4が政治的な何かで消えたという話も聞きましたが。

池田:ActionScriptはECMASciptから派生してできたもの。ActionScript 3が出て、次はECMAScipt 4が出るというところで、いろいろあってストップしたんですよね。で、まったく別の枝からECMAScipt 5が出たんです。

白石:じゃあ、iPhoneやジョブズに関する想いはどうですか?

池田:iPhoneが最初に販売されたときはまだ性能が低かったので、Flash Playerが載らないのは仕方ないと思ってました。でも、iPadにFlash Playerが搭載されなかったのは大きかったですね。Adobe Flashのエバンジェリスト、Lee Brimelowは「Go screw yourself Apple」というブログを書いて批判していました。

:彼は腕にひらがなで「ふらっしゅ」ってタトゥーを入れるくらいFlashを愛していたんですよ。

池田:FlashのアプリをiPhoneアプリとして生成するサードパーティ製のツールも出たのですが、数カ月でそれもApple側が審査を通さなくなってしまった。AIRでActionScriptを変換して出せるパッケージャーも出たんですが、「Thoughts on Flash」という有名なタートルおじさんのセリフとともにすべて消えてしまいました。

:当時、FlashがなかなかiPhoneに載らないので、Adobe MAXという大きなイベントでAdobeのCTOがどうしたらiPhoneにFlashが載るかというのをブラックジョークなパロディ寸劇でやったんですよ。あれも刺激したんじゃないかなあ。

白石:FlashはそんなにAppleのビジネスを阻害したんでしょうか?

:Flash Playerはウェブブラウザ上で動いていたので、App Storeを経由しなくてもアプリを提供できてしまいます。当時、App Storeの仕組みを普及させようとしていたAppleとしては、良く思わなかったはずです。

白石:「ジョブズからの手紙」をエンガジェットさんが要約してくれていますね。

:バッテリーなんかは、Flashと同じものをHTML5 Canvasで作って載せたらよけい重くて動かなくなると思いますけどね。

白石:ということで、Androidでは動いていたけど徐々に動かなくなり、デスクトップのアプリケーションとなり、モバイルの隆盛とともに衰退していったということでしょうか。

池田:作る人がいなくなっていったというのも大きいですね。モバイルが中心になってきたにも関わらず、モバイルでは動かすことができず、新たな技術も生まれず、新規の作品を作る人がどんどんいなくなってしまった。

白石:Flexなんかはわりと早めの段階でApacheに寄贈していましたね。2011年の頃ですね。

池田:Adobeの決断は早かったですね。

:Flexに惚れて入社したので、辞めようかと思うくらいショックでした。

:業務アプリケーションにユーザービリティとかエンターテインメント性という概念が生まれたのは、Flash以降ですよね。

:Flashのコンソーシアムも立ち上がってました。企業の中にノウハウがないから、コンシューマ向けのコンテンツを作っている人たちから吸収しようといろんな化学反応が起きてましたね。

:Flashの勉強会は、全然違う分野の人たちが話せたのがすごくよかったですね。

今後のwebを占う

白石:池田さん、Flashの現状と今後はどうなっていくでしょう?

池田:2020年でFlash Playerのサポートは終了するんですが、Adobe AIRでiPhoneやAndroidアプリのデプロイが可能なので、Flashテクノロジーとしては継続していくと思います。サードパーティ製アプリ禁止が緩和されて、Adobe AIRは個人で開発するのには最適なプラットフォームなのですが、新たにFlashを学ぼうという人はほぼいないので、Flashがこれから盛り返していくことは、現実的に難しいんじゃないでしょうか。

白石:Flashで培われたシズル感を表現するツールのようなものが減っているような気がします。HTML5やモバイル、 WebGLといった技術の中で、今後のwebはどうなっていくでしょう。

:現時点のWebで何かを表現するには、HTML,CSS,JavaScriptが基本になるので、そこはしっかり抑えておきたいですね。表現力という意味ではWebGLに注目が集まっていますが、Flashのように誰でもすぐ使える技術かというと疑問は残ります。どうしても高度なプログラミングがベースとなるので、学習し始めてから成果が出るまでの時間がかかりすぎる面はあります。

池田:UnityからWebGLに書き出す機能もあるし、Unityの学習曲線もそろってきているので、コンテンツが増えないのかというのはトータルで見ていく必要があると思っています。WebGLでFlashコンテンツと同じようなものを作るとすごい容量になるので、WebGLでユーザーにストレスなく遊んでもらうにはキャッシュをうまく使うためにService Workerを覚えたほうがいいとか、周辺技術もいくつかおさえておかないといけない。ハードもスマートフォンやパソコンもあるからトータルにおさえなくてはいけない技術がたくさんある。学ぶものの多さが普及の妨げになっているんじゃないでしょうか。

:Adobe Edgeでいろんなアニメーションの方向性を細分化して模索してみたんですが、DOMアニメーションがきついので、結局CSSアニメーションとCanvasしか残さなかった。昔はFlash Playerのことだけ考えていればよかったのに、ブラウザやハードもたくさん増えたので、今のクリエイターは本当に大変だと思います。アドビも作り手がワクワクしながら簡単にできるツールを提供できるように頑張りますので、期待してください!

白石:では最後にひと言ずついただけますか。

池田:Flashがなぜ衰退したのかは、Flashの好き嫌いはともかく、理解しておいたほうがいいと思っています。政治的な理由やプロパガンダによって自分が使っていた技術が突然なくなってしまうこともあり得ます。Flashを教訓として、例えばHTMLが使えなくなったとしても今まで覚えた技術やノウハウを次の異なる技術でも活かしていきたいです。

:Flashは衰退してWeb標準のほうに傾いているけど、最近のブラウザでもFlash Player 6とか7くらいの表現はできるようになってきました。HTMLやJavaScriptだけを見るよりも、Flash時代のライブラリを振り返って学んでおくと幅が広がるし、過去の資産が生きることは結構ある。Webコンテンツやアプリ、モバイルゲームを作る人もFlash時代の本やコンテンツなんかで学んでほしいと思います。

:アドビの中の人として、Flashのマーケットをどうしようか悩んだんですね。でも、Flashツールじゃなくて手段であると考えた。その先のお客さんが楽しく、仕事がしやすくなるように、Flashの育てた文化やコミュニティをひっくるめて、マーケットに貢献したほうがいいなと。Flashのコミュニティのおかげで生まれたものもあるし、面白い仕事を作っている人は今も活躍している。若い人たちにもこういう面白い世界があったんだと伝えていきたいですね。

イベントの様子は「Creative Cloud 道場」もしくはYouTubeで公開されているので、興味がある方はぜひこちらからご覧ください!