昨今のWebアクセシビリティへの取り組み
Webアクセシビリティの確保、すなわちアクセスに用いられるソフトウェアやハードウェアによらず、誰もがWebコンテンツを利用できるようにすることは、関連するJIS規格(JIS X 8341-3)が2004年に公示されてからは特に、理解と普及のための取り組みが積極的に進められてきました。しかし、すべてのWebデザイナーや開発者がそれを当然のことと受け止め、関わるすべてのWebサイトで実践するようになったかと言えば、残念ながら現状そこまでには至っていないでしょう。
それはなぜか? Webアクセシビリティを確保しようとすると、コンテンツで実現したい表現(特にビジュアルデザイン)や機能が制限を受ける、との誤解が根強く残っているためかもしれません。あるいは、Web関連業務の受発注において、アクセシビリティ対応がいまだオプションとして扱われ、値引き交渉の材料になりやすい(結果として要件から除外されやすい)ような状況が続いているためかもしれません。
はたまた、これまで障害者や高齢者への対応という文脈で語られることが多かったがゆえに、ターゲットとする利用者が障害者や高齢者で無い限り(あるいはコンテンツが極めて公共性の高いもので無い限り)、Webアクセシビリティを考慮する必要は無いなどと認識している人が、いまだに少なくないからかもしれません。
Webは誰でも、どんなデバイスからでも使えてこそ
真相がどうあれ、Webの利用者が右肩上がりで増加し続けているばかりでなく、スマートフォンやタブレット端末の普及に端を発し、アクセス手段の多様化に拍車がかかっている以上、すべてのWebサイトで一定のアクセシビリティが必要なのは明らかです。ここで、Webの創始者であるTim Berners-Lee氏の次の言葉を思い返してみましょう。
The power of the Web is in its universality. Access by everyone regardless of disability is an essential aspect.
そう、アクセシビリティこそはWebのもつパワーの根源であり、Webの本質のいち側面。誰もがコンテンツを利用できてこそWebであり、それを担保するのがアクセシビリティである、とも言えます。いわゆる「マルチデバイス時代」を本格的に迎えた今となっては尚のこと、どんなデバイスからでもアクセスできるよう、コンテンツの種類や多寡を問わず、Webアクセシビリティを確保することは重要なのです。
Webアクセシビリティの意義と、今後の執筆予定
私は、従来からある障害者/高齢者対応としての意義に加え、マルチデバイス時代にコンテンツが備えるべき「品質」として、Webアクセシビリティの意義を広く喧伝したい。そして、先に述べたような誤った理解や認識を正し、最終的にはWebデザイナーや開発者の誰もがアクセシビリティの確保に当たり前のこととして取り組むような時代を切り拓きたい。大げさに聞こえるかもしれませんが、そのような目的をもって、今後私はこのHTML5 Experts.jpで不定期に記事を書かせていただこうと思います。
時事的な話題も取り上げるかもしれませんが、当面はW3Cの策定したWebコンテンツのガイドライン、Web Content Accessibility Guidelines (WCAG) 2.0の詳細や、その活用方法について解説していきます。Webアクセシビリティは、厳密にはコンテンツだけで確保できるものではなく、ユーザーエージェントや支援技術側の対応もあってこそ確保できるものですが、私の記事ではあくまでもWebデザイナー/開発者の立場でできることにフォーカスします。そしてまた、WCAG 2.0との協調を果たした2010年版のJIS規格、JIS X 8341-3:2010の使い方についても触れていきます。
html5j アクセシビリティ部のお知らせ
初回としてはだいぶ堅い内容となってしまいましたが、最後にちょっとしたお知らせを。近く、html5jにアクセシビリティ部が立ち上がります。私はその部長補佐として、活動を盛り上げていく予定です。年明け以降になりますが、キックオフミーティングを開催しますので、Webアクセシビリティに興味・関心のある方は、後日のアナウンスを楽しみにお待ちください。