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WebクリエイターのためのIoT/WoTの基礎知識

連載: IoTxWeb (1)

ここ数年、モノのインターネット: Internet of Things(IoT)が盛り上がってきています。今年のCES 2015(世界最大級のIT&家電見本市)でも IoTが大きなテーマとなったようですね。具体的なプロダクトやサービスも数多くローンチされ、今年はIoT元年ともいわれています。

「IoTとは何なのか」「なぜ今注目を集めるのか」「Web of Thingsとは」について解説します。そこから今後のIoTと、我々Webクリエイターがどう関わるのか、についても考えてみましょう。

モノのインターネットとは? IoTの本質を考える

Internet of Thingsとは、さまざまなモノがインターネットに接続され、センサーなどによりデータを測定したりコントロール可能にする概念だと言われています。モノがインターネットに繋がっていろいろできるということですが、その実体はなんなのでしょう。単にいろんなモノがインターネットに繋がることでしょうか。例えば、冷蔵庫がインターネットに繋がってレシピが見られるようになったら、それはIoTでしょうか。

それもIoTだという人もいるかも知れません。しかし、それだけでは少し物足りないと私は考えています。誤解を恐れずに言うと、IoTの本質はセンサーデータとサービスの融合です。モノの状態やその場の状況を測定し、その情報をネットワークを通じてサーバーに送り、そのデータを分析・解析し、適切なサービスを提供する。それまでやってこそIoTの本領が発揮されるのです。

先の例だと 単にモニタを付けただけの冷蔵庫ですよね。冷蔵庫内の温度、湿度、内容量、内部の空気の状態、カメラ画像などを取得し、そのデータをクラウドへ送り、分析することによって冷蔵庫内の食品の状態を管理しユーザーへ適切な情報を提示する。さらに各家庭の冷蔵庫の使われ方を横断的に分析すればいろんな可能性が考えられます。

このように、センサーとビッグデータによるサービスが新しいビジネスを生み出すと期待されています。

IoTの対象分野: すべてがインターネットにつながる

分かりやすく冷蔵庫の例で説明しましたが、IoTの対象はもちろん家電だけではありません。いわゆるスマート家電といったものや、それらを統合したスマートホームの実例も出てきています。

ヘルスケア業界も機器メーカだけでなく、Nikeのようなメーカーや、スタートアップも多く参入しています。もちろん医療分野でも、センサーを埋め込んだカプセルを飲み込んで消化器系を検査する内視鏡のような新しい検査や治療が期待されています。

生活に関わる場だけでなく、むしろそれ以上に産業界でも大きな変革をもたらすとも言われています。建機や産業機械、工場やビルに取り付けたセンサー群によって状態をリアルタイムで管理し、作業の効率化や故障の事前検知によってダウンタイムをゼロにすることを目指す取り組みもあります。

車産業ではコネクテッドカーと自動運転を実現するキーとしてIoTが注目を浴びています。他にも、農業、エネルギー、教育、公共、福祉などの幅広い分野での活躍が期待が大きく膨らんでいます。その市場規模は 2020年には 3兆400億ドルとも言われます。(※ 世界IoT(Internet of Things)市場予測を発表

なぜ今IoTなのか: IoT時代の幕開け

モノにセンサーを付け、データを集めて処理をするという概念は昔からありました。Internet of Thingsという言葉も1999年に論文で出てきます。以前からあるものがなぜ今注目されているのでしょう。いくつかの要因がありますが、大きなポイントは3つあると考えます。

小型で安価なセンサーの普及

ハードウェアの進化によりセンサーやチップの小型化、省電力化が進みました。また量産性も上がり、安価に作れるようになってきました。 これによりIoTデバイス自体の小型化や低価化はもちろんのこと、センサーを多数搭載したデバイスや、大量にセンサーを環境に配置するなど、従来コスト的に厳しかったことが実現可能になってきました。

クラウドやビッグデータ基盤の成熟

ここ数年のクラウドとビッグデータの発展は、言うまでもありません。センサーから送られる大量のデータをクラウドのストレージに格納し、ビッグデータ分析により高パフォーマンスの解析が簡単に安価に可能になりました。またそれらを活用したサービスを立ち上げるコストも格段に下がってきています。

メイカームーブメント

ハードウェアとソフトウェアの発展により、シンプルなIoTデバイスであれば簡単に作れる土壌ができてきました。そこにメイカームーブメントとデジタルファブリケーションの波が起こり、大きな潮流となっています。Makerの祭典である「Maker Faire」は、世界中で開催され毎年規模を拡大しています。開発者が増えることでツールやライブラリが充実し、さらに開発者が参加しやすい環境が生まれています。

ハードウェア(モノ)とソフトウェア(サービス)、それに開発者(人)が揃ってきている今、まさにIoT時代の幕開けですね。

Web of Things: すべてがWebにつながる

IoTの一つの側面として、Web of Things:WoTといわれるものがあります。インターネットとWebの関係のように、IoTをセンサー類のネットワーク層と考えたとき、WoTは上位のアプリケーション層として位置付け、そこにWeb技術を利用する構想です。端的に言ってしまうと、なんでもWebに繋げよう、ということですね。

Webに繋げるということは、広く普及しているWeb技術を活用できるということです。開発者数の多いWebエンジニアがIoTに参加することが可能になります。開発者の増加は産業の発展にもつながり、IoT/WoTはますます進化のスピードをあげていくでしょう。

Web標準化団体W3CでもWoTコミュニティの設立やワークショップが開催され始めました。WoTで必要なものを整理し標準化することで、より活発な開発が期待されます。まだまだ議論中ですが、現在のところ4つの層が提案されています (以下は多少専門的な内容/用語を含みますので、「これからのIoT」の節まで飛ばしてくださっても構いません)。

Accessibility Layer

Web APIを使ってモノに接続し、操作・プログラミング可能にするWoTのコアレイヤーです。RESTful APIを使うことで、既存のWeb(HTML、JavaScriptなど)とシームレスに接続可能にします。

一方IoTではHTTPのリクエスト/レスポンスパターンよりも、MQTTやCoAPといったPublish/Subscribe(出版-購読)モデルのプロトコルが使われることも多くあります。そのような場合、WebSocketを使用してプロトコルを変換し、REST APIを補完します。

シンプルなセンサーや小型デバイスでは、パフォーマンスやバッテリーの問題でZigBeeやBLE(Bluetooth Low Energy)を使うことも多く、直接HTTPアクセスが難しいことがあります。非IP層とWebを繋ぐスマートゲートウェイを利用することで、その問題を解決します。スマートゲートウェイを使えば、ネットワーク層以下を隠蔽し、先ほどのプロトコル変換なども行えます。

Findability Layer

接続可能なモノがあるのか、また場所はどこなのか、を見つけるための層です。今後、センサーが環境に大量に増えた場合などに必要になってきます。このレイヤーではセマンティックWebの考えが使われます。MicrodataやRDF/RDFa、JSON-LDなどでモノがどういうサービスと接続可能なのか、どういうAPIがあるのかなどを定義し、それらを検索可能にします。

Sharing Layer

Web of Things は個人情報を含むビッグデータを扱うことも多くあります。そのため、サービス間でデータを連携する場合、どのモノの情報をどのサービスが使用できるのか効率的に安全に共有する必要があります。そういった情報をソーシャルネットワークで解決できないか、というSocial Web of Thingsというアプローチもいくつかあります。

Composition Layer

最後のレイヤーでは、モノと連携したアプリケーションを簡単に作成するために、サービスとモノのデータを高いレベルで統合することを担います。Web2.0の時代のサービスを統合するマッシュアップに影響を受け、物理的なモノとサービスを統合するフィジカルマッシュアップを行うための基盤や仕組みを提供します。例えば IFTTT のように誰でも簡単にプログラムのスキルを必要とせずとも統合できるようなツールやアプリケーションがいくつか提案されています。

他に面白い動きとして、Web of Thingsのある種究極ともいえる Physical WebというGoogleが立ち上げたプロジェクトがあります。 全てのモノにURLを与え、専用アプリではなくWebだけで、ワンタップでアクセス可能にする構想です。仕様・設計はオープンにし、WoTの標準を目指しています。中央集権的なハブを介さず、網目状にURLでリンクするというのがまさにWebらしい考えですね。

これからのIoT: 僕らがこれからできること

グーグルのエリック・シュミット会長が、「インターネットは近い将来、生活のあらゆる面に浸透し事実上『姿を消す』だろう。『センサー類や機器が世の中にあふれ、全く気にならないほど身の周りのいたる所に存在するようになる』と語ったと話題になりました。

そこまで進んだとき、IoTはどうなっているでしょうか。最初にIoTの本質はセンサーデータとサービスだと言いました。センサーが当たり前になった将来、IoTはモノがインターネットに繋がるというレベルを超えて、これまで関係がなかったような事業、産業同士が繋がり、新しいサービスの萌芽が数多く見られるようになるでしょう。

そんな時代に、Webクリエイターだからこそ活躍できることがあると思っています。Web業界は日々新しいビジネスモデルのサービスにチャレンジしています。その業界に身を置く我々は、まずサービスから考えることに長けています。また、UXDのようなユーザー体験を重視したサービス設計も行われ、サービスに対して真摯に向き合っています。それはこれからのIoT時代において、非常にアドバンテージとなるでしょう。

そこに加えて、今後僕たちWebクリエイターに必要なスキルは、境界を越えるスキルではないかと思っています。ハードウェア/ソフトウェアの境界はもちろん、デザイン、企画、営業、経営などの職種を越え、異なる事業/産業の境界をも越えたところに、新しい可能性が広がっているように思います。そのあたりの詳細は、別途行った対談でまとめられるかと思いますのでお楽しみに。

おわりに

IoTの定義は非常に曖昧で、各社各団体が様々なことを言っています。今回の私のまとめ方も全ての人が納得がいくものではないかもしれません。しかし、正確な定義はあまり重要ではないと考えています。例えば、クラウドの正確な定義より、そこで何ができるのかが重要ですよね。IoTも同様で、IoTを使って何ができるのか、どんなサービスが実現できるのか、を考えることが重要です。

さて、この記事では「IoTとは何か」について長々と説明してきました。しかし、IoTの楽しさは、言葉では表現しきれません。自分が思うとおりに、実際にモノが動くことはクリエイターなら誰しも感動するはずです。子供の頃のワクワクする感情が沸き上がってくること請け合いです。もしまだIoTを体験されてない方は、ぜひスクリーンから飛び出して、リアルをハックしてみてください。