【HTML5 Conference基調講演】村井純・及川卓也が語る「IoT」でWeb技術はどう変わっていくのか?

2014年10月にHTML5が勧告され、いまやHTML5はさまざまなデバイスに浸透しつつある。まさに「Web is Everywhere」。Webはごく普通の、どこにでもあるものへと変化している。
2015年1月25日に開催された「HTML5 Conference」では、この「Web is Everywhere」をテーマに慶應義塾大学 環境情報学部長・教授の村井純先生とGoogleの及川卓也さんが基調講演を行った。村井先生と及川さんはWeb技術をどう見ているのか。

村井先生が松葉杖姿で登壇!それができたのもWebの力?

なんと村井先生は松葉杖で登壇。「生まれて初めての松葉杖です」と冗談交じりに、米国で足の指を骨折したときのことを、自らのレントゲン写真をスクリーンに映し出しながら話し始めた。そのレントゲン写真のデータは米国の診療所でもらったもの。

「データ化されたレントゲン写真を日本の整形外科に送ったところ、「すぐに手術しなければならない」ということになったのだそう。帰国して即、処置してもらったことで「今日、登壇することができた。このようなことが自由にできたのもWebの力だ」と村井先生。



そんな村井先生の講演テーマは「Web and Things」。
「70億人を超える人が参加しており、1000億のデバイスとセンサーがつながり、無限のデジタルデータがグローバルに流通し共有する、インターネット前提社会とはどのような社会なのか。それについて話をしていきたい」と語り、まず、近年流行の「IoT」という言葉を取り上げた。

「IoT」は「Internet of Things」の略語である。この言葉を最初に使ったのは、英国人のケヴィン・アシュトン氏で、RFIDネットワークと新しいセンシング技術に関する研究機関「オートIDラボ」をマサチューセッツ工科大学(MIT)に設立した人物である。ちなみに同研究機関の日本拠点は村井先生のいる慶応SFCにある。ケヴィン氏と村井先生はそのときからの知り合いだそうだ。

この当時のケヴィン氏が使ったIoTのコンセプトは、モノがトラッキングできるということだった。しかし今、私たちの間で使われるIoTは「Everythings speaks HTML、HTTP、TCP/IP、HTTP」、つまりすべてのモノがインターネットによって双方向でつながるようになるということ。

このことによってどう変わるか。その一例として村井先生が紹介したのが、米の人気ドラマ「House of Cards」。これはネットフリックスという動画配信サービスの会社が制作したドラマである。実はこのドラマは視聴者がどんな監督、俳優、どんなテーマの作品を好んでいるのか、どんな場面でチャンネルを離れたのかなど、セットボックスを介して得たビッグデータを解析して制作したのだという。



「これまでテレビは一方向のメディアだったが、もはや双方向の時代。GoogleTVやAppleTVなどのスマートテレビのプラットフォームを提供している企業は、もっと情報が取得できるようになる。そしていずれはテレビにもPCのようにカメラをつけることになるだろう。このようにモノがつながることによって、まったく新しいテレビ番組作りが始まっている」と村井先生は語る。

デジタルファブリケーションが進むと物流や税関、税金がなくなる!?

またもう一つのIoTの例として紹介されたのが、3Dプリンタなどを使ったデジタルファブリケーションの動きである。慶応SFCは2014年に図書館に3Dプリンタなどを設けたファブスペースを開設した。3Dプリンタは学生なら自由に使えるようになっているという。例えば脳の研究室では、学生が自分の脳を3Dプリンタで印刷して授業に活用しているという。

また村井先生はデジタルファブリケーションの面白事例として、3つの字が同時に書ける「cheating pencil」という学生が考えた作品を披露した。そしてこの作品の3Dデータは公開されており、ダウンロードすれば世界中の誰もが複製できるという。つまり「Download This Thing!だ」と村井先生。例えばこれを防災グッズに応用する。バケツが足りなくても、「Download This Thing!」ですぐバケツが作れる。



「このようにスキャンしたイメージをプリントすることが世界中でできるようになると、物流、税関、税金もなくなる。社会へのインパクトは大きい」と村井先生は力説する。

しかし問題点も出てくる。それは品質管理、知的所有権、製造責任の3点。その一つの解決方法として村井先生が示したのはRFIDの活用である。RFIDを印刷物に埋め込む3Dプリンタを開発し、個体を識別するというのだ。

このように技術はどんどん発展している。しかし経済産業省の調査によると、日本はイノベーションにデータを活用していないという。しかも経営者はイノベーションへのデータ活用をネガティブに捉えているという。

最後に村井先生は、かつて世界中のプレイステーション3をつないで並列処理を行ったことを挙げ、「これと同じことがWebでもできるのではないか。強力なAIができるのでは。IoTとはまさにこのことではないか」と問いかけた。ただしそのAIを動かすのは人間である。

鉄人28号がリモコンを持っている人間によって、良くも悪くもなるということと同様、「Human Centricであることは忘れてはならない」と指摘することも忘れなかった。
「並列処理ができる環境にブラウザやWebはなるのか。みんなで議論したい。今年はきっと面白い年になる」と語り、村井先生は講演を締めた。

「ネクタイ姿」というコスプレで登壇した及川卓也さん

次に登壇したのは、Googleの及川卓也さん。講演テーマは「Web技術の今後と展望」。毎年、同イベントに登壇している及川さんは、かぶりものやコスプレをすることも多いのだとか。今回はなんとネクタイを締めての登場。及川さんは冒頭で「ネクタイを締めてきたのはコスプレなので(笑)」と会場を沸かせ、講演をスタートさせた。

最近のトレンドについて「ロボットやIntel Edison、シングルボード・コンピューティングや、通信やウェラブルやマルチコプターなどが出てきており、シングルボード・コンピュータなどIoTが注目を集めている」と及川さん。検索トレンドとして「IoT」が急上昇しており、「一般にも広まりつつある」と語る。

またIaaSやPaaS、BaaSなどのクラウドの普及も低価格化、コンテナ技術、ノンプラミング実装、オープン標準技術などにより、ますます加速している。さらにすでに実装が進んでいるので、それほどインパクトはないかもしれないがHTML5が勧告されたことも挙げられる。

ChromeでもShadow DOMやCustom Elements、HTML Imports、Picture Elementなど、コンポーネント化する技術、デバイス連携、暗号化技術などの技術などが取り入れられている。

さらにChromebookやFirefox OSが搭載されたスマートフォン「Fx0」など、Webアプリケーションを使うデバイスの多様化も進んでいる。こういった一般的なITトレンドの背景を踏まえ、2015年、Webはどう変わっていくのか。

2015年Web技術はどう変わる?

及川さんはIoTでWebの仕組みも変わっていくと言う。
「WebはこれまでクライアントからHTTPリクエストを送って、Webサーバからレスポンスが返ってくるという接続方法のみだった。そしてこの世界での機器との連携といえば、キーボード、ディスプレイ、マウスぐらいで(最近はMIDI機器なども登場しているが)、基本的にはクライアントに接続されていた」

このように非常にシンプルだったのだ。しかしIoTの世界になると、Bluetoothなどでクライアントに接続される機器もあれば、機器自身に搭載されたWi-Fiにより、クラウドとつながるものもある。

またWebSocketという技術を使えば、双方向ではない通信も行える。「もはやWebとはなんぞやという世界」と及川さん。マッシュアップしてHTML上にマップのパーツを埋め込むなど、いろんなサービスと連携もできる。最近、Chromeに採用されたService Workerの技術は、ブラウザの中に非常にインテリジェンスの高いWebプロキシが入っているような技術。

これにより独自にサーバからリソースを取得することが、ブラウザ側でできるようになる。このようにIoTのトレンドなどを見ていくと、「Webはかなり自由度が高いが、複雑になる可能性のある技術へと変わりつつある」と指摘した。

そしてWeb技術の使われ方もそのものも変わってきているという。これまでのWWWを支えるフロントエンド技術としてだけではなく、「組み込み機器の分野で、いまやアプリケーションを開発する技術として使われることが増えている」と言う。「プログラミング人口も開発ツールも増えるので、すごくいいこと」と及川さん。

一方で、メモリ容量やバッテリ消費などの要件が関わってくる。「これまでのようにDOMで記述するだけで本当に足りるのか、DOMというモデルがどこまで有効なのか、今後、検討していかねばならない」と指摘を促した。

もう一つ「大事なことがある」と及川さんは語る。それは既存のWebサイトのユーザー体験の向上である。今や多くの人がインターネット端末としてスマートフォンを使っている。しかし地方自治体のモバイル対応状況はまだまだ低い。

また日経225企業と米S&P500企業のWebサイトの表示速度を比較したところ、日経225の方が少し遅いという。
「少しの工夫でこれらのユーザー体験は改善されるので、既存Webサイトの底上げを図って欲しい」と及川さん。最後に「がんばれニッポン!」と呼びかけ、講演を終えた。

2015年、IoTがより進んでいくことでWeb技術は新たな展開を見せることになりそうだ。


■上記の基調講演は動画でも公開中です

(写真協力:HTML5 Conference 撮影チーム)

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