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2020年のプログラミング教育必修化で、未来はどう変わる?―教育現場の現状と課題・教材・義務教育のビジョンetc.

HTML5 Experts.jp編集部の馬場です。
いよいよ2020年度から小学校でプログラミング教育が必修化されますね。
今回の「Webの未来を語ろう2018」は「プログラミング教育」がテーマです。

HTML5 Experts.jpの白石編集長をモデレーターに、プログラミング教育の最前線で活躍中の、みんなのコード利根川裕太さん、ライフイズテック水野雄介さん、日本マイクロソフト春日井良隆さんをお招きし、プログラミング教育の現状からプログラミング教育必修化の課題、その先に目指す未来について語っていただきました。


今回のゲストプロフィール

ライフイズテック株式会社 代表取締役CEO 水野 雄介さん
1982年生まれ。慶応義塾大学理工学部物理情報工学科、同大学院在学中に、開成高等学校物理非常勤講師を2年間勤める。卒業後、人材系コンサルティング会社に入社。教育変革を掲げ、退社後、2010年7月、ピスチャー株式会社(現ライフイズテック株式会社)設立。シリコンバレーIT教育法をモチーフとした中高生向けIT教育プログラム「Life is Tech!」を立ち上げる。現在延べ15000名の中高生がLife is Tech !に参加。

NPO法人みんなのコード 代表 利根川 裕太さん
一般社団法人みんなのコード代表。慶應義塾大学経済学部卒業後不動産デベロッパーへの勤務を経て2011年よりラクスル株式会社に立ち上げより参画。2014年Hour of Codeのボランティア実施後プログラミング教育の必要性を感じ、2015年7月一般社団法人みんなのコードを設立し代表理事に就任。2016年、文部科学省「小学校段階における論理的思考力や創造性、問題解決能力等の育成とプログラミング教育に関する有識者会議」委員。

日本マイクロソフト株式会社 プロダクトマネージャ 春日井 良隆さん
岐阜大学 教育学部を卒業後、大沢商会、アドビ システムズを経て、マイクロソフトに入社し、ExpressionとSilverlightのマーケティング戦略を担当する。その後、エバンジェリストとして、ユーザーエクスペリエンスやHTML5、プログラミング教育の普及に奔走し、Imagine CupやHour of Codeの日本での活動を主導する。2015年よりWindowsのプロダクトマネージャーとしてコンシューマ市場を、2017年より教育市場を担当。


プログラミング教育のこれまでの取り組み

白石:まずは皆さんの自己紹介と、プログラミング教育との関わりについてお聞かせください。

水野:ライフイズテック水野です。これまでプログラミング教育は重要だと言われながら、社会がなかなかついていけてなかった。プログラミングスキルは「やりたい」「好き」という気持ちがないと伸びないと考え、7年半前に中高生向けIT教育プログラム「Life is Tech!」を立ち上げました。

「Life is Tech!」は春夏冬休み中に、3~8日間のキャンプ形式でiPhoneアプリやゲームを作りながらプログラミングを学びます。1回150~200人の中高生が参加し、5~6人が1チームになり、大学生がメンターとなって中高生に教えています。これまで延べ27,000人が参加しており、世界2位の規模となりました。

Life is Tech!では、ただプログラミングのスキルをつけるだけでなく、好きな仲間と出会ったり、尊敬する大学生のメンターに学ぶことでこんな先輩になりたいと思ったり、夢中になれることを見つける体験をしてほしいので、大学や企業など、中高生にとって非日常な空間でキャンプするということを大事にしています。

「Life is Tech!」キャンプの様子

有料コースと無料コースがありますが、全体の1/3が無料体験会や企業とのタイアップキャンプの参加者です。最近はIoTをテーマに開催したり、NHKさんとAIを学んだりしています。ポケモンGOやUnityのコースも人気があります。参加者には勉強時間はLINEが使えなくなったり、ライバルが勉強し出すと通知が来る機能など、独創的な発想で作った勉強管理のアプリを作り、ダウンロード数が10万超えした子もいます。

子どもたちにはいつもプログラミングの力で「半径2mの世界を自分たちで変えていこう」、さらに「その半径を広げていこう」と伝えています。


ライフイズテック株式会社 代表取締役CEO 水野 雄介さん

利根川:僕は大学卒業後、大手の不動産会社に就職し、2011年にラクスルというベンチャーに社長の次にエンジニアとして入って、立ち上げから携わりました。それから4年経った2014年くらいに、エンジニアと非エンジニアの壁をなんとなく感じていたこともあり、アメリカの非営利活動法人Code.orgが展開している「Hour of Code」をみんなでやってみたんですね。

それをきっかけに、こうしたプログラミング教育が日本にも必要だと思うようになり、2015年1月に小学生のプログラミング教育を支援する活動準備を始めました。7月にはCode.orgの日本パートナーとなる一般社団法人みんなのコードを設立しました。

当時はプログラミング教育がこんなに盛り上がるとは思っていませんでしたが、2020年から必修化も決まり、行政・企業との連携を深めながらプログラミング教育の支援活動を広げています。

私たちみんなのコードは、「全ての子どもがプログラミングを楽しむ国にする」というミッションを掲げています。なぜ、全ての子どもなのかというと、プログラミングコンテストはある程度できる子を伸ばすのにはいいけど、全ての子どもの育成に対する取り組みってあまりないと思ったから。なので、裾野を広げるほうを頑張ろうというコンセプトでやってます。

IT人材不足や論理的思考を鍛えるという考え方も大事ではあるんですが、実際に授業でやるときは「プログラミングを楽しむ」というのを第一にして、結果的に子どもの能力が高まるとか、社会で活躍できる人材を育てたいと考えたからです。

「国にする」とした背景は、こういう活動って東京だけ先に進んでしまって、地方との格差が生まれることが多いんですよね。その差を埋めるために地方でも活動しています。とはいえ、全ての子どもに直接教えるのは無理なので学校の先生、特に小学校の先生に対しての指導を行っています。プログラミング教育についてのシンポジウムを開催したり、地方に出向いて体系的に学んでもらったり、実際の授業で使える教材を提供したりなどですね。2017年度のシンポジウムは10都市1000名超の先生に参加してもらいました。これからはさらに拡大していく予定です。


一般社団法人みんなのコード 代表 利根川 裕太さん

春日井:日本マイクロソフトの春日井です。Windowsのマーケティング担当として、教育市場を見ています。HTML5 Experts.jpのエキスパートに名前を連ねているように、以前はWeb系の技術のエバンジェリストをしていたのですが、後半は学生向けのエバンジェリズム活動も兼任していて、その頃に知り合ったのが水野さん。

「Life is Tech!」は大学生が中高生を教えるというスタイルで、お互いの年齢が近いから親近感があるんですよね。子どもたちを盛り上げる趣向が凝らされていて「すごい!」って毎回感動しています。しかも、経験と知見が積み重なり、どんどんバージョンアップしてる。

利根川さんとは、彼がCode.orgの日本パートナーとして、みんなのコードを立ち上げた頃に知り合いました。Code.orgはアメリカのSTEM教育(※)の普及を支援するNPO団体で、Microsoft、Apple、Google、Facebook、AWSなど大手のIT系企業が数多くサポートしています。

STEM(ステム)教育:科学(Science)、技術(Technology)、工学(Engineering)、数学(Mathematics)の教育分野を総称する、2000年代に米国で始まった教育モデル。

Microsoftは「Microsoft MakeCode」というMicrosoftが開発した学習者向けのプログラミング環境とコンピューティング教育用教材を展開しています。最近はIoTを活かしたフィジカルコンピューティングが人気で、micro:bitというマイコンと連携できる「MakeCode micro:bit」が注目されています。USBでつないだmicro:bitをビジュアルコーディングでLEDを光らせたり、温度センサーや加速度センサーを使ったモノ作りにも使えます。理科や技術なんかの教科との組み合わせの相性もいいですよね。

ほかにも、MakeCodeはMinecraft(マインクラフト)をプログラミング教材として使うこともできて、一緒に組み合わせる「Minecraft Education Edition」というマイクラの教育版があります。Minecraftは全世界の子どもがほぼ100%やっている人気のサンドボックスゲームですね。

水野:シンガポールでも大人気で、どこのコンビニでも一番目立つ場所に置いてあります。

白石:うちの小4の息子もすごくはまっていますね。いつもYouTubeの実況を見てます(笑)。

春日井:YouTubeを見て勉強する子も多いみたいですね。古い世代は先生からの一方的な詰込み型の教育が当たり前だったんですが、お互い子ども同士が学び合おうという協働学習の学習効果に注目が集まっていて、Minecraft: Education Editionにはそんなこともできるように工夫されています。

先生が黒板に「ここに集合!」と書いたり、仮想世界にいる子どもをガイダンスしたりする機能もあって、お値段もお手頃。先生が一人、1年あたり544円払えば使うことができます。

実績としておもしろいのは、立命館小学校の事例ですね。京都には、たくさんの観光施設があることはご存じの通りですが、海外の人にもっと知ってもらおうという課題を解決する学習にMinecraft: Education Editionが使われました。

ちゃんと設計図を手に入れて、誰が屋根と庭とかを作るかなどの業務分担をし、訪れた人のアングルまで徹底的に考え、議論しながら作っています。先生はあくまで手助けするだけで、子どもたちが主体的に取り組んでいるところが素晴らしいんです。

Minecraft Education Editionはプログラミング教育だけでなく、STEM教育全般をやろうとしています。例えば、私たちの世代だと元素記号を覚えるだけだったものが、仮想空間の中で水素と酸素を合成すると水を生成するようなことを体験したりします。現CEOのサティア・ナデラの理解もあり、マイクロソフトでは全世界的にかなり教育に力を入れていますね。


日本マイクロソフト株式会社 Windows プロダクトマネージャ 春日井 良隆さん

白石:子どものプログラミング教育を支援するのは、Microsoftにとってどういうメリットがあるんですか?

春日井:1つは社会的な責任ですね。。第4次産業革命に向けた人材育成を引き合いに出すまでもなく、ICTのスキルを持った人材の育成は急務です。日本のマイクロソフトの人間として、日本の将来に貢献をしたい。それは、偽らざる気持ちです。

商売的な話をすれば、子どもの頃からWindowsに慣れ親しめば、大人になったらSurfaceを買ってくれるだろうという期待もあります(笑)。あとはスマートフォンに対する、パソコンの意義というのも伝えていきたいと考えています。

世界のプログラミング教育はどうなっている?

白石:続いては、世界のプログラミング教育どうなっているかについて伺いたいと思います。1月にロンドンで開催された「BETT」という教育イベント、皆さん行かれてるんですよね?

利根川:私も行ってきました。

春日井:BETTは世界で一番大きい教育系のイベントで、国を挙げてブース出しているところが多く、今年の韓国は大きかったですね。でも、日本はブース出してないんですよ。遅れをとるのではないかとかなり心配しています。

利根川:僕は課題はあるけど、単純に「遅れててやばい」という論調は一面的過ぎると思っています。例えば、グローバルでもプライベートの塾はまだあまりないし、日本の小学校でも先進的な取り組みをやっている先生もいます。

春日井:正確に言うと、プログラミングができる最先端の人材を生み出す高等教育に対する取り組みが遅れているんじゃないかと思っています。

水野:そもそもプログラミング教育の前に、まずパソコンが扱えて、パソコンでものが作れることが必要なんですが、Wifiやパソコンの設備が整っていないですね。以前シンガポールに住んでいたんですが、向こうもそれほど進んでいるわけでもなくて、やはり(プログラミングができる)先生が少ない。

英語は「できない」というマイナスの状態から、「できる」というゼロにすることだけど、プログラミングはゼロをプラスにする学びなので、ほぼ横一線。日本はものを丁寧に作るとか、ソフト面では勝っているので、まだ可能性はあると思います。

利根川:僕も横と比較して嘆くより、これからどれだけ良くしていくかの方が重要で、先に進んでるところからどうやれば前に進めるのかを学べばいいんじゃないかと。アメリカが進んでたらそこからカリキュラムを学べばいいし、悲観する必要はないと思います。

HTML5 Experts.jp編集長 白石俊平

白石:ちなみにどこの国が進んでるところかありますか?

利根川:アメリカは進んでますね。あとはイスラエル、イギリス。特にイングランドはコンピューティングという教科があり、小中高と授業があります。時間枠、教科書、センター式みたいな試験もあって枠組みや体制が整っています。

春日井:ちょっと前に話題になった内閣府では、諸外国の若者と比較すると、日本の中学生のスマホの所有率はあまり変わらないのですが、パソコン所有率はかなり少ないという結果になっていました。

水野:普通に向こうは小学3年生からiMovieから動画作ったりしますからね。Googleドライブで宿題出したり、リテラシーの差はかなり大きい。

白石:今の子どもたちはPCがなくてもタブレットやスマホでやっちゃうことが多いですよね。

利根川:コンテンツの消費側はそれでもいいけど、制作する側になるとまだ本格的なところはPCでないとつらいと思います。

春日井:消費は間違いなくスマホ。でも何かクリエイトする時は、PC、キーボード、大きな画面がないと難しい。

白石:ではそういう話やデータから考えると、作る力は育っていかない可能性がありますか?

春日井:なんとかしないといけないですね。

利根川:個人の家庭、学校によっても差が出てくる面もあります。

白石:そういう課題が浮き彫りになり、未来に進んでいかなくてはいけないという話になってきたので、プログラミング教育のこれからの話に進みましょう。

プログラミング教育のこれから

白石:プログラミングの義務教育化の話が出ましたが、ざっくばらんにお聞きしたい。調べたところ「コーディングを覚えることが目的ではない」とか「プログラミング的思考」が大事とか、賛否両論あるらしいですね。アンプラグドコンピュータサイエンスというパワーワードもあったりして。

利根川:よくプログラミングが2020年から必修化になるってメディアに出てるので勘違いする方もいるのですが、正確にいうと小学校、中学校、高校がプログラミングを教えないといけないんですよと指導要領は出ますが、プログラミングという教科ができたり、コードの書き方そのものの授業をやるわけではないのです。その指導要領は10年に一回しか変わらなくて、そのタイミングが小学校が2020年、中学校が2021年、高校が2022年になります。

現状どのくらいプログラミングを授業に取り入れているかというと、小学校についてはほぼなくて、たまに面白いことをやりたい学校や、2020年を見据えて先行的にやる学校がまれにあるくらい。中学校は今の指導要領でも技術課程の中で、4~8時間くらいロボット制御の計測という授業があります。ただこれも問題が山積みで、教科書には入ってはいるけど、ちゃんとやらない先生もいます。

高校は情報という教科の中に、理系よりの「情報の科学」と文系よりの「社会と情報」という科目があり、プログラミングは情報の科学の中にのみ入っています。ただし、学校ごとに開設科目は決まっていて、配分は15%:85%と情報の科学が少ないという状況です。

水野:そうですね。その15%もかなり初歩的な内容が多く、僕が衝撃を受けたのは、テストの問題で「キーボードのここはAですか?Pですか?」って問題が出てたこと。キーボードの位置を覚えることに価値はないし、問題山積みな状況です。

利根川:そして、小学校は算数とか理科の中で、多角形をプログラミングで書いてみる。書くというより、プログラミング体験してコンピュータに指示する感覚をつかみましょうというかんじですね。中学校は今の指導要領にあるロボット等の制御の内容に加えて、ネットワークを使った活動が増えて、今やっていることを倍増にするイメージです。

高校は「社会と情報」と「情報の科学」を統合して情報の科学よりの「情報Ⅰ」という必履修にして、これまで15%しかやってなかったことを100%にして、教科の中に入っていくといったかんじです。プログラミングという単独の教科はありません。

白石:小中高とプログラミングという教科は出てこないと。小学校においては、現在技術課程でやっているのを2020年以降は理科とか算数で、もうちょっと厚めにやるということでしょうか?

利根川:小学校は現時点ではゼロです。ゼロの状態から算数・理科の科目で体験というかたちでやります。ただ、一斉に始められるものでもないので、去年くらいからトライアルが始まっているというかんじです。

白石:まず授業ができるのかが気になりますね。教える科目・内容は学校や先生任せだということですがそこは変わるんですか?

利根川:最低限の基準はありますが、そこは変わらないですね。

春日井:一応教育委員会の皆さんも、変えようとはしていますけどね。

白石:学習指導要領とかって全然わからないんですけど、一応ほかの理科、算数、社会などはここまでやろうよというのは決まっている?

春日井:ざっくりしたガイダンスとかは決まってますね。

白石:たとえば高校3年生の数Ⅲとかだったら微分積分といったところまではやろうとか。

利根川:そういうのは決まってますね。小学校も算数・理科は教科書には書かれるので、多角形を書くのをプログラミングでやってみましょうとか。

白石:でも今の話だと、教科書の内容もバラバラかもしれないと。

利根川:中学校の技術課程くらいになると、あまり教科書は使われなくなるんですよね。副教材中心で、教科書は参考書くらいの扱いになっていくと思います。

白石:「プログラミング教育はコーディングを覚えることが目的ではない」といった内容がブログで書かれて話題になってましたが、どう感じてますか?

利根川:文科省としては、小学校段階からちゃんとプログラミングそのものを学習のターゲットにしようとしています。しかし小学校は全国で2万校あって、40万人の先生がいますが、そのほとんどの先生がITリテラシーが高いわけではありません。その状況から数年でプログラミングを教える環境にするのは無理なんですよね。

春日井:僕が小学生の時は書道やそろばんの塾や、授業で音楽・体育・技術とかやりましたけど、みんな音楽家や書道家になるわけじゃなくて、教養として必要だからやるというかんじでしたよね。

中には体育の授業でスケートを知って、冬季オリンピックを目指すことを決意した子もいるかも知れない。プログラミングもこれから必要になる教養、あるいは未来の可能性をひらくきっかけだと思っています。

利根川:例えば環境問題って家庭科でも理科でも社会科でも、ごみ処理や温暖化などについてはいろんな教科をかいつまんで学ぼうというのは、少しでも興味を持ってもらうために文科省がよくやるやり方です。個人的にはもっとちゃんとやってほしいという思いはありますが、現実的な第一歩としてはしかたがないかもしれません。

白石:でも、そのまま10年間変わらないというのは問題なのでは?

利根川:そうなんです。そこが問題なんですよね。

白石:IT人材を増やすという直接的な影響にはならなさそうですか?

春日井:いわゆる第四次産業革命の人材を育てると国が打ち上げたので、そこに合わせて一つの指導要項が組まれたという背景はありますね。

利根川:文部科学省・経済産業省・総務省、それぞれ動きはかなり違いますね。学校の授業の中で何を教えるのかは文部科学省、総務省は学外や部活や地域であったり、基礎スキルがある人をどうやって伸ばしていくか。経産省はグローバルに発展させるための人材の輩出だったり、このEduTechというものを産業にしていこうとか。文科省だけにとどまらない動きがあります。

学校教育、特に小学校中学校は職業教育じゃなくていろんなチャンスに気づくための機会。30~40代はプログラミングに触れたことがあるのは10%いるかいないかなんですが、この世代になると100%になるんですよね。やってみたら面白いとか伸びそうという子どもの母数が増えて、未来の仕事につながればいい。学校教育としては、そうした体験をしてもらう機会を作るというのが責務になります。

Life is Tech !のような塾・クラブ活動、CoderDojo(コーダー道場)みたいなコミュニティは、よりプログラミングをやりたいという子を伸ばすところ。学校教育にプロフェッショナルな体験を期待しすぎるのはちょっと筋が違います。

ただ政府としては第四次産業革命というムーブメントを起こし、この国をAIやIoTといったテクノロジーの力で、もう一度元気にしようという動きがあります。プログラミング必修化になったのも、ある種内閣内のバズワード、必修化するときの体制を第四次産業革命に生かすため。これらの取り組みで興味が出てきた子のスキルを伸ばし、価値を提供する側に育成するという動きが経産省でも出ています。

社会はどう変わる?子どもたちにはどう教えればいい?

白石:最後は社会がどう変わるか、子どもたちにどう教えればいいんだろうというテーマについてお聞きしたいと思います。どうやったら楽しく効率よく教えることができるのでしょうか。

春日井:白石さんは、今お子さんに何かやらせてるんですか?

白石:うちの小4の息子はHour of Codeから始めました。でもHour of Codeはわりとさくさくできちゃって、次にスクラッチやらせてみたんですが、UIがイマイチいけてないかんじがして…(苦笑)。あとは「プログラミン」をずっとやってました。

最近はビジュアルプログラミング言語で、Minecraftを題材にPythonを教えてました。でも、その辺りから興味が失ってきちゃって。原因はいろいろあると思うのですが、まずプログラミングは多少英語を知ってないとできないんですよね。

例えば、英語でimportと言われてもまったく意味がわからない。すべてがおまじない。コマンドラインをたたかなくてはいけないんですが、そういう単調作業が面倒くさくなってしまってる。親が「やりなよ~」と言うと、逆に嫌になっちゃってる状況なんです。

利根川:そもそも白石さんの「教えよう」というのは、あまり筋がよくない気がします(笑)。基本的に「やりたい」と思ったときに、すっと出す方がいい。いわゆる従来の勉強が嫌いになるのと同じことをプログラミングでもやろうとしている。それであれば教えないほうがよくて、興味を持ったときに教えてあげたほうがいい。特に家庭では子どもに押し付けるとよいことがない気がします。

水野:10歳以上になってくるとだんだん自我が芽生えてくるので、まずお父さんやお母さんがめちゃくちゃ楽しそうにやってることに食いつくんですね。それができないとしたら、僕はコミュニティだと思います。楽しく効率的に学べるかはコミュニティ。

子どもはその場の雰囲気やそこにいる人たちと学ぶことが楽しいとか、ライバルに負けたくないとか、コミュニティに所属することによって子どもたちは成長する。10歳以上になって自分たちが教えられないのなら、自我に任せつつ、そういうところに行かせたほうが伸びると思います。

春日井:でも、白石さんみたいにPython書けるお父さんがいる家庭はなかなかないですよね。

白石:子どもたちも楽しくやってたし、最初はやりたがってたんですけど、そこをどううまく育てていけばいいのかなって考えちゃうんですよね。

水野:英語もそうですよね。5歳くらいのときは楽しかったけど、親が話せなくなると、だんだん楽しくなくなってくる。例えばインターナショナルスクールに行って友だちと毎日楽しく話していると、話せるようになるのと同じことだと思います。

白石:ライフイズテックさんは子どもが「プログラミングをやりたい」って、参加するんですか?それとも親が「やってみたら?」と勧めて参加させてるかんじなんですか?

水野:基本的には子どもたちが「やりたい」と言って参加してきてくれます。僕ら教育者の仕事は、子どもがやりたいって思ってくれるようなものを作る、HPの作りもそうだし、チラシもそうです。オリンピックで飛んでたドローンやPerfumeのプロジェクトマッピングみたいに、子どもたちに作ってみたいと思わせる欲求や、キャンプに参加してみたいというワクワク感を出させることが教育者側のやるべきことだと考えています。

白石:それは子どもたちに直接アプローチしないと、Life is Tech!のキャンプの情報は伝わらないと思うんですが、どうやってるんですか?親とかならいろんなメディアを見ていると思うんですけど。

水野:学校でのクチコミや、友だちの紹介が多いです。先生も自分たちでは教えられないからと、学校単位でキャンプをやったりとか。マイクロソフトさんで、品川女子学院と聖光学院でコラボキャンプをやったこともあります。

親としてはマイクロソフトを見に行けるし、品女の子は共学の雰囲気を楽しめる。きっかけは何でも、結果的に興味を持ってくれればいいんですよね。

春日井:マイクロソフトがMinecraftを教育用にカスタマイズしようとしたのはまさにそれで、子どもたちは興味を持たないとやらない。子どもはMinecraftが大好きなので、だったら教材にしましょうと。Excelでマクロ組んでみましょうっていう授業だったら、楽しくない。

白石:でも、Education Editionは先生しか使えないとのことですが、一般家庭でやるにはどうしたらいいですか。

春日井:最近は教育機関じゃないところでもできるようになってきました。ただMinecraftをパソコンで使う場合、Java版とWindows 10 Editionの2パターンあるんですね。

白石:うちの息子はJava版ですね。

春日井:Pokect Editionは、どんどん、Java版に近づいているのですが、その、Pocket EditionのWindows10版を「Minecraft Windows10 Edition」と言います。Windows10のストアから3,150円でダウンロードできるんですが、これは最初にお話したMakeCodeとつなげられるようになっています。Code Connectionという無償のツールをインストールするだけなので、ぜひやってみて下さい。大人がやっても楽しいですよ。

白石:みんなのコードでは、プログラミング教材「プログル」というツールを作られているんですよね。

利根川:プログルは小学校の算数の授業、主に小学校5年生を対象に、学校の先生が使うために作ったプログラミング教材です。多いときだと1日1000人くらいの児童が使ってくれていて、従来の多角形の学習よりは楽しいと思います。

白石:2020年以降はが爆発的に全国の小学校で使われると。

利根川:そうなるといいですね。うちでプログラミングをやるとしたら、スクラッチとかマイクラのほうが楽しいと思いますけど(笑)。

先生がちゃんと自分が楽しいと思って授業やクラブ、学校外でもやってくれればいいなと。プログルのホームページも学校の先生向けに作っています。

白石:最後に本日のディスカッションを振り返って、ひと言お願いします。

春日井:子どもの頃にピアノを習って、その後ピアノを弾くことが喜びになる人、音楽を聴くことが喜びになる人、音楽に全く興味が持てなかった人など、人それぞれだと思います。いずれにしろピアノを習うという体験をしなかったらわからなかったことですよね。

これからの社会を考えると、プログラミングもそういった機会が与えられるチャンスが増えていくと考えています。そのための支援や活動を続けていきたいと考えています。

利根川:プログラミングを勉強することで、将来ITで価値を提供する仕事に就いたり、営業やマーケッターの仕事でも少し役立てることがあると思います。でも大事なのは、やってみて合うか、合わないと知ること。やったけど自分には合わないというのを早めに知ることはメリットになります。

一方で懸念しているのは、テクノロジーで豊かになっていく東京と、そうでない地方に国が分断されていくんじゃないかという危機感があります。そうならないように、テクノロジーの教育の場を全国に広めていきたいですね。

水野:ライフイズテックは「テクノロジーを知っている」ということを普及させるために活動していますが、プログラミング教育の本質というのはクリエイティビティを伸ばすことだと考えています。業務を効率化させたり、論理的思考を身に付けたり、テクノロジーを進化させるためのツールを作るにもクリエイティビティが必要です。

クリエイティブ力を伸ばすための教育や施策は今後ますます重要になっていきます。本質となるクリエイティビティやコミュニケーションを大事にしながらやっていきたいと思います。